連載: the other rather together−2


急に冷めて評価し始めるシビアな関西人2人に伊吹はどっと疲れてしまった。更に、ソファーで起き上がって会話を続ける治が伊吹の右側のすぐ近くにいるため、邪魔だった。侑が伊吹側のひじ掛けに腰かけていることもあり、2人の会話が伊吹を挟んですぐのところで行われているのだ。


「つか俺を挟んで議論してんじゃねぇ」


伊吹はそう言って治を再びソファーに寝そべらせようとしたが、体幹に勝てず、むしろ治の胸板に当てていた手を掴まれて一緒に倒れさせられた。伊吹は治の体の上に掛け布団よろしく横になっている。


「うわ、ちょ、何すんだ」

「いやぁ、収まりがええからつい。抱き枕的な?」

「え〜治ずるいわ〜」


1つ上だとは思えないほど体格が違う2人であるが、治はより筋肉質なのか、侑に抱き込まれたときよりも弾力があった。胸元に頭が乗っている現状は、エアコンの効いた部屋ではその温もりが存外心地よく、ゆったりとした喋り方が耳元に落ち着いた。だんだんと今日一日の疲れが首をもたげてきて、それは強烈な睡魔となって急にやってくる。


「やべ…これ寝そう……」

「寝てええで」

「俺、そういうのマジで寝るからな」

「ええって」


治の許可も得てしまえばこちらのものだ。すり、と顔を寄せて、目を閉じる。途端に睡魔に引き込まれるのが分かって、意識を手放した。



***



「ホンマあざといなぁ」


治は自分の胸の上で寝息を立てる整った鼻梁をそっと撫でた。侑はソファーとローテーブルの間に移動すると、伊吹の頭に近いところで腰を下ろし、頭を撫でつける。


「こんなん、前の彼女にもしたことあらへんわ」

「治がそんな気にしとるん珍しなぁ」

「侑かてこんな簡単に受け入れるヤツやないやろ」


治からすれば侑だっていつもと違う。再婚による義弟という、まさに家庭の異物であるはずだった存在は、まるで昔から知っているかのように馴染んでいた。不良っぽい見た目に目つきも悪い、口も悪いヤツだが、そのわりにきちんと会話は続いた。
今日、最初に会ったときからなかなか面白いヤツだとは思っていたのだが、恐らく、治にとっても侑にとっても、バレーのうまさと帰り道での言葉が大きかった。バレー大好き人間なのは双子に共通するところだが、この新しくできた弟もまたバレーが相当好きなようで、見た目に反して豪快なプレーは見ていて気分が良かった。

そして、帰り道。侑の性悪さを見抜いたうえで、それが全力で向き合っていることの証明だとして、好ましく思っていると告げた。2人がバレー部以外の同世代に対して、仲良くしつつも一歩引いてしまうのは、きっと伊吹が言っていた通りなのだろう。自分たちでも分かっていなかったが、なんとなく、バレー部以外のメンバーと一緒に慣れ合う気分になれなかった。それは、きっと彼らが妥協を重ねて生きていて、何事にも一生懸命というのを口先だけにしていると分かっていたからだ。
だから、バレーにすべてをかけている2人にとって、全力で取り組む何かを持たずにのらりくらりと生きている奴らと、真に仲良くできる気がしなかったのだ。

それを言い当てた伊吹に驚いた。きっと、伊吹は中学のバレーに全力だったのだろう。中総体が終わるまで一緒に暮らすのは待つと言っていたのは聞いていたため、伊吹にとって、尼崎へ引っ越す前に最後の仲間と頑張る機会が中総体だったわけだ。それだけ、本気だったのだと分かる。


「なんちゅーか…不思議なんよな、こいつ」


治はぼんやりと色々考えながらつぶやいた。侑はひたすら伊吹の頭を撫でながら「せやなぁ」と同意した。今日一日で受けた印象を、治はゆったりと並べたてた。


「不良なくせにバレーに全力で。空手めっちゃ強いのに細くて。中3やのにエロくて。ガラも口も悪いのに、ふとしたときの言葉は的射とるし。普通の男子っぽく明るくしとるけど、やっぱ離婚のことで傷ついとって、それを隠しとって、1人で生きてけるよう家に頼らんなんて言うて1人で立って。でもこうやって無意識に甘えてくんねん。さっき侑が言うとった通りやな。構いたなる」

「せやねん。色んな顔見たなるし、もっといろいろ知りたいし、一緒に同じモン見たいねんな」

「あれやな、実質恋しとるよな、それ」

「治、俺かてそれは言わへんかったんねやで…」


さすがに恋とまではいかない感情だろう。まだ1日目だ、知らないことの方が多いのだ。
それでも、伊吹の持つ魅力に引き寄せられている自覚は、2人にあった。



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