こうはいこわい−3
翌日、作戦の第一段階が始まった。
まず、電気工学コースの作並と女川が、小原の古いスマホを使って監視カメラの作製を行う。スマホにアプリをダウンロードしてから、二口のノートパソコンと連動させモニターにするのだ。
機械工学コースの黄金川が木製の簡単なボックスを造り、それを塗装して、通信大手の企業名とロゴを書く。
そのボックスに小原のスマホをセットしてカメラだけを穴から見られるようにして、充電コードを通す穴もつける。
そして伊吹の家の無線LANと接続させ、玄関の右上にある換気扇付近にボックスを設置。充電コードは換気扇から室内に通して、延長コードでコンセントに繋いだ。
これで怪しまれずに即席監視カメラを設置できた。この作業は、ストーカーが仕事に行っている昼間に実施している。
同じく昼間に、機械工学コースの吹上と青根が同様の監視カメラをアパートが面する道にある電柱にくくりつけた。しっかりとした金属製のベルトで電柱にボックスを巻き付けており、このボックス自体も金属製。ボックスの中にはカメラとなるスマホと携帯バッテリーが入っており、一日は持つ。
このスマホは小原の実用機で、普通に通信できるため、二口のパソコンと連動させてこちらもモニターできるようになっていた。
夕方近くなってから、青根と吹上は伊吹が渡した鍵で部屋に入り、二口のパソコンでモニターをする。
そして、やって来たストーカーを2つの監視カメラで特定するのだ。
この間、母は実家へ帰ってもらい、伊吹は二口と学校にいた。ストーカーには、今日も明日も部活だと思わせるため、伊吹と手の空いている部員たちはいつもの夏休みの部活らしく登下校する。
夕暮れになり、教室で待機していた二口と伊吹のところに、吹上から連絡が入る。電話だ。
「もしもし、俺。うん、来た?……了解、やっぱそうか。分かった、気ぃつけてな」
「なんて?」
「想定通りっスよ。ストーカーは仕事終わりに封筒を伊吹さん家に投函してから、伊達工に来て伊吹さんを尾行してるっぽいです」
2つのカメラによって、ストーカーは投函してからすぐにアパートを離れていくのを確認した。
青根たちはそれを確認してすぐに、カメラの映像を元に郵便受けのストーカーが触れた部分を、機械工学コースの部屋から拝借したアルミニウム粉を纏った筆でなぞり、指紋を採取する。金属粉は油脂に付着して指紋の形となり、それをテープで採取するのだ。
粉末法と呼ばれる、実際の捜査手法の1つである。
青根たちはこのまま指紋と封筒を警察に提出しに行く。
「さぁ、次は俺たちの番ですよ」
「……あぁ」
二口は駄弁っていた机の菓子を片付けると、伊吹とともに昇降口へ向かう。
同じく夏休みの宿題を伊吹の指導下で進めていた部員たちも帰り支度をして、いつも通りの下校を演出する。
「ごめんな、オフに付き合わせて」
「伊吹さんに見てもらって宿題進んだんでむしろ良かったっス!」
それに黄金川がそう返すと、他の部員たちも大きく頷いた。伊吹は決して教えるのが上手くはない。それでも、まとまった時間のおかげでそれなりに進めてやることができたようだ。
また明日も同じことをする予定である。
そうしていつも通り、学校を出てから歩き、五橋駅から南北線で帰るわけだが、今日は二口とずっと一緒だった。
このまま二口は伊吹の家に泊まるのだ。
日が暮れて夜になり、伊吹は二口と玄関を潜る。当然、封筒はない。通信会社の設備のような監視カメラは起動し続けている。
ストーカーが始まってから初めて誰かを招き入れた。
しかも二口は、わざわざ伊吹の肩を抱いて殊更親しく見せていた。玄関を開けるときなど、伊吹の腰に手を回し、「今日の晩飯なんですか」とわざわざ耳元で聞いてきた。
明らかに、見せ付けているのだ。