連載: the other rather together−優しさの発露


翌朝、早速伊吹は朝食と弁当の支度をしていた。両親とはすでに話して、食材を買わせてもらっている。弁当箱も双子がそれぞれ買ってきたので、すでにテーブルに鎮座している。
白米用の円筒型の器と縦長の二段箱のセットで、侑は白、治は黒だ。買ってきた姿のまま渡されたので、その形が同じだということに気付かなかった。

双子といえどなんでもセットにするなと自分たちで言うわりに、色違いのセットだ。双子ミラクルだろうか、と思っていると、その2人が降りてきた。
寝起きのまま顔も洗わずにリビングにやって来た2人は、もう美味しそうな匂いが満ちているのを感じ取ったのが目を輝かせる。


「おはよ伊吹!早速やんな!」

「おはよぉさん伊吹、今日も美味しそうやな」

「はよ。治は何言ってんだ」


冷蔵庫から牛乳を出しすがら治は伊吹の尻をぺろんと撫でた。つい手に持っていたフォークを翳すと、「うっわガチやん」と大して恐くもなさそうにのたまった。
いちいち気にしていたらこちらの体力が持たないと放っておき、伊吹はその合間に顔を洗ってきた侑に弁当箱を指し示す。


「お前ら同じやつにしたのな」

「ん、あぁ、せやで。その方が楽やろ?」

「え、俺のため?」

「?おー。やって、同じ形のが詰めんの楽やんな?」


どうやら2人は、伊吹の手間を減らすために同じ形のものにしたらしい。そういう気を遣ってくれるとは思っていなかったため、伊吹は少し驚いた。


「てっきり双子ミラクルかと……」

「なんやそれ!あ、こっちに米入れて、二段全部おかずな」

「分かってるって。マジで食うな」


治は牛乳をしまってから「部活終わったらまた食うで」と言いつつまたも尻を撫でてきた。さすがにその膝裏に軽く蹴りを入れてやった。
呻いてから治は顔を洗いに行き、侑はそれを呆れたように見遣る。


「あいつホンマアホやな」

「人のこと言えねえだろ」


侑も大概だ。
伊吹は作業の続きに取り掛かり、レンジとコンロを行ったり来たりした。少し動線に無理があるので、あとで双子のどちらかに動かして貰おうと考える。もちろん伊吹だってこれくらいできるが、使えるものは使う主義だ。

侑と軽く話しながら作業をしつつ朝食用のおかずも取り分ける。そこにようやく覚醒した治が戻ってきた。
ちょうどそのタイミングで卵焼きができて伊吹はそれも皿に乗せる。包丁でカットしたところで、ハッとした。


「やべ、卵焼き甘くしちまったわ。こっちって基本しょっぱくするよな」

「ん?あぁ、別にええで。関西いうても色んな家あるし、甘い卵焼きの家も結構あるで」

「個人差よな。伊吹は仙台おる頃甘くしとったん?」

「まぁ……」


つい癖で甘い方を作ってしまったが、関西は概して出汁などでしょっぱく作ると聞く。もちろん個人差はあるが、聞かずに作ったのは失敗したと焦った。
しかし2人はあっけらかんとしている。


「むしろ伊吹の家が甘かったんなら甘い方がええんやない?」


侑はそう言ってウィンナーをパクリと食べる。すでに治は卵焼きをもそもそ食べていた。「うま」と呟いてから、治も侑の言葉に同意した。


「ただでさえ生活環境めっちゃ変わったわけやん?食うモンくらい、慣れた味残しとかなストレスでぶっ倒れるで」

「治が言うと説得力あるやん…ま、そういうことや。伊吹が作ってくれるだけで嬉しいし」


伊吹のために甘くてもいいと言ってくれた2人は、やはり何でもないようにしているが、伊吹は2人が思う以上に心が温かくなる気持ちになっていた。弁当箱といい、2人が伊吹のことを判断の基準としてくれている優しさがくすぐったかった。
そんなところへ、レンジが音を鳴らして完成を告げる。扉を開けて中の皿を出すと、敷台を挟んでテーブルに乗せる。それを見た2人はおお、と声を上げた。


「すご、これあれやろ、スイートポテト」


さすがの治はすぐに何か分かったらしい。侑も早速箸を伸ばしている。


「甘いの続いて悪ぃな」

「全然かまへんよ!にしても、お洒落なモン作れへんとか言うてなかった?」

「…これだけ、な」


2人が熱いスイートポテトをふがふが言いながら食べるのを見てから、白米を詰めようとしゃもじを用意する。どうやらお気に召したらしく、いたく感動したように2人は食べていた。


「……よく、運動会とか大きな試合とか、そういう大事な日に父さんが作ってくれてたんだよ、それ。父さんそれだけしか作れねえけど、作り方教わってさ」

「…へえ。特別な味なんやね」


父さん、というのが前の父を示すと分かった侑は、普段よりも優しげな声音で言った。
前の父が特別なときに作ってくれたのが、このスイートポテトだった。食べられるときが限られていたから嬉しかったし、応援してくれる気持ちが伝わって、父の優しさの形であったスイートポテトが好きだった。
なんとなく食べたくなって作ってみた。


「……じゃあ、俺らも大事な試合んときとかに作ってくれへん?」

「え……」


すると治はそう言って伊吹を見上げた。優しい色を瞳に浮かべた緩やかな笑顔だ。
侑も「せやな」と頷いた。


「伊吹にとって特別なモンやったら、俺らも大事に食いたい」

「……ん、わかった……ありがと」


つい礼を言ってしまった。礼を言うような場面ではなかったが、伊吹の大事なものを大事にしようと尊重してくれる2人の優しさの発露に、つい出てしまった言葉だった。

治は再び牛乳を出そうと立ち上がり冷蔵庫に向かい、すれ違い様にぽん、と伊吹の頭を撫でた。



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