あと40分−2
早速翌日、昼休みに勉強を見ることになった。教科書とノートを持って伊吹のクラスにやってきた白馬を前の席に着かせると、邪魔しないようにということなのか、昼神と星海は離れた席に移った。
「どこ分かんねえの、って聞きてえとこだけど……あのテスト見る感じ、どこが分からないか分からないみてえなとこだろ」
「否定はしない」
「できるモンならやってみろ」
伊吹はドヤ顔の白馬に呆れて溜息をついてから、古文の教科書を開かせた。一番後ろの助動詞のページだ。
「これ、覚えてるか?」
「?いや。古文っつっても同じ日本語だろ?」
「それで済むなら現文と古文で分かれねえだろドアホ」
伊吹は向かい合って座る机の下で白馬の足を蹴った。2メートルを誇る長躯だけあり、普通の学校の机ではほぼはみ出しているため、蹴りやすい。
「いって!マネージャーだろ!選手に暴力ってどうなんだ!」
「うるせえ。で、白馬。まずはこの表全部覚えろ、話はそれからだ」
「え、ぜんぶ……?」
「全部な」
愕然とする男前に伊吹はすげなく返す。基本もなく勉強を教えても意味がない。
「期末まで1か月切ってんのに…?」
「……白馬お前、まさか全科目このレベル?」
「保健はイケる!」
「それ以外はダメだと」
やたらドヤ顔をしがちな白馬だが、バレー以外はてんでダメだった。期末まで1か月、対象は実に10科目、実技科目を除くと8科目だ。実技科目は赤点でも補習はないからこの際捨ててもいい。
「……白馬、社会の選択なんだ」
「?世界史」
「ッんでよりによって……!」
「やっぱりワールドワイドじゃないとな!」
「ほぉ……」
「あ、でもあれだな、古文と生物と世界史と政経は暗記ゲーだろ?」
「…へぇ……」
「現文はノリでいけるし、数IIと英表とコミュ英だけみっちりやればいんじゃないか?」
「……」
この期に及んでトンチンカンなことを言う白馬に、もともと低い伊吹の沸点が超過した。
ガタ、と音を立てて立ち上がると、白馬の胸ぐらを掴んだ。逞しい胸板に引っ張られたシャツは掴みづらく、それがまたイラっとする。
「今なんつったか、もっかい聞いていいか……?」
「な、なんでもないス」
「そうだよなぁ!聞き間違いだよなぁ!こんなクソみてえな暗記ゲー小テストでクソみてえな点数取ったのに余裕な態度なんて取れるわけねえもんなァ!!」
「伊吹、どうどう」
胸ぐらを掴んで凄む紛うことなき不良たる伊吹に、さすがの白馬も両手を挙げて降参ポーズだ。昼神が見かねてやって来て、伊吹を後ろから抱き締める。
昼神も190超えの高身長だ、20センチの差がある伊吹は包み込まれてしまう。
「…てめえは何してんだ」
「怒りよ鎮まりたまえ〜的な?」
ゆるりとした笑顔はこちらの気も抜ける。伊吹は長い溜息をついてから、白馬のシャツを放す。
「おい白馬」
「うす」
「毎日部活後、てめえに全必修科目の赤点回避ラインまでの学力を叩き込む」
「え、マジで?」
「お前ん家借りるぞ」
「お、おう……」
目の据わった伊吹に反論できるはずもなく、白馬は頷いた。
「芽生〜、襲っちゃダメだよ?」
「襲わねえから!お前じゃあるまいし!」
「そりゃあ伊吹を家に呼んで手ぇ出さない自信ないし?」
「お前は何言ってんだ」
ついでに後ろにも容赦ない肘打ちを入れてやれば、昼神は無言で沈んだ。