連載: rack up, good luck !−vs青城
それに、たとえ囮が地味でも、気持ち良くないわけではない。
「月島みたいなでかいヤツが、何人もお前の動きにアホみたいに引っかかったら気持ちいいだろ!」
「うおおお!いい!それいい!!」
こちらの作戦通りに術中にハマるブロックを見るのは、大層気分が良いものだ。ボールが壁を躱して相手のコートを打ちぬく。その快感もまたバレーならではだ。
「まぁ朝倉さんは囮があってもなくてもブロック吹っ飛ばしてたけどな!」
「マジかよ朝倉さんすげえええ!!」
するとなぜか影山はどや顔でそんなことを言った。日向は目をキラキラさせてこちらを見上げる。
隣の清水がこっそり笑っているのを横目に、伊吹はため息をつく。
「なんでお前がどや顔すんだよ…つか昔の話だろ」
「?でも今でも3枚ブロックぶち抜けますよね?」
「…お前は、3枚ブロックの本当の脅威を知らねぇんだ」
さも当然のように言う影山。さっと伊吹の脳裏には、あの「鉄壁」が浮かぶ。慌てて振り払うが、上級生たちの顔が曇るのを見逃さなかった。
影山は伊吹の真意を掴むことを早々に諦めると、日向に向き直る。そのマイペースさに、今は救われた。
「逆に、お前が機能しなきゃ、他の攻撃も総崩れになると思え」
「!!?」
「ちょっと!あんまプレッシャーかけんなよ!」
そんな影山だったが、次に放った言葉は間違いなく日向のデリケートな心に突き刺さった。心のブロックを打ちぬいた影山は?を浮かべるが、日向は俯く。澤村は父親然りとして影山を叱るが、こちらは分かっていないようだった。
なんというか本当に、嵐のような1年生だと思った。
***
いよいよ、青城との練習試合の日となった。
そこに至るまで、日向の緊張は日に日にひどくなっていき、本当なら及川たちに会ってしまうことへの不安やらなんやらを感じるべき伊吹が、日向の緊張に負けてそのことを考えるのを忘れてしまっていた。おかげで、今まで逃げてきたにも関わらず、今日いきなり2人に会う嵌めになってしまった。
何もかも伊吹のせいなのは確かだが、あの春の日から1年が過ぎてしまった今、どうやって2人に会えばいいのか分からない。
もちろん、朝起きて仮病を使うことも考えたのだが、そうやって逃げようとすると、なぜか日向が浮かんだ。何があってもボールに、勝ちに食らいつこうとする貪欲な雛ガラス。日向の姿が思い出される度、伊吹は、逃げずに立ち向かわなければならないような、そんな気に駆られてしまって、迷っているうちについ足が動いてしまったわけである。
結局、マネージャー用の青いジャージを着て伊吹は清水と広い構内を歩いた。選手たちとは少し違った動き方をするのだ。引率である顧問の武田とともに先方に挨拶し、ドリンクなどを用意しなければならない。
「…朝倉も、緊張してるの?」
すると、流し場で清水がそんなことを聞いてきた。スクイズボトルの蓋を締めながら、伊吹は動きがつい緩む。
「…や、緊張は、してねっす。少なくとも、選手と同じようなモンはないですね」
「そう。それにしては、緊張してるように見えるけど」
「……中学のヤツって、ちょっと会いにくいとこ、ねっすか」
「うーん…まぁ、分かる、気はする」
「そんな感じっす」
「そんな感じなんだ」
清水とこうした話をするのは珍しい。無駄口のない人だから、こんなにも事務的でない会話が続くこともない。
その清水が言うくらいなのだから、どうやら伊吹は自分が思っているよりも、この状況に緊張しているらしかった。