連載: rack up, good luck !−2


選手に遅れること数分して、伊吹は体育館に入った。私立、しかも仙台市の中心部である青葉区東部に位置する学校なだけあって、体育館は広く清潔だ。
選手たちはウォーミングアップをしており、だいぶ温まってきているようだったが、オレンジの小さいのはぎこちない。あれは大丈夫じゃないな、と客観的に見ていたときだった。


「なっ、朝倉さん!!?!?」


そんな大きな声が体育館に響き渡り、館内の目という目が声の主に向かった。直後に烏野のメンバーはこちらに視線を向けて、少し遅れて他の人々も声の主の目線を辿ってこちらに向いた。
「ほんとだ、朝倉さんだ!」「うお、マジか」「行方不明だったのに!」という声がそこかしこで聞こえてくる。
そして声の主は呆けて立ち尽くし、その隣で普段は冷静沈着な後輩も呆然としていた。


「……よっ」


仕方なく、その2人、金田一勇太郎と国見英に手を上げて挨拶をすると、かなり離れているにも関わらず2人が駆け寄ろうとしているのが見えた。しかし、それより先にこちらへ足を進める重い足音がドスドスと響き始めた。

こちらへやってくるのは、今にも人を殺しそうな顔をしたゴリラだった。


「ヒッ……」


思わずそんな声が出るのも仕方ないだろう。伊吹はつい影山の後ろに隠れようとしたが、圧はどうしてもこちらに放たれる。


「伊吹……!」


その低い声にすくみ上りそうになるのを我慢して、ウォーミングアップを中断している状況を早くなんとかしようとマネージャーとして奮起して、影山の背中から出る。


「は、話は試合後に、岩泉さんッ!!」

「…、ぜってぇだぞ、逃げんなよ」


唸るような声とともにこちらを睨む岩泉に気が遠くなる。伊吹の肝が小さいわけではない。確かにホラーは苦手だが、あれは岩泉が怖いだけだ。
しかし岩泉は正確にこちらの意図を察したようで、青城の面々に練習に戻るように指示した。見たところ及川はまだいない。
「話あるヤツは後であいつとっ捕まえるからそんときに尋問しろ」という恐ろしい発言は聞かなかったことにする。


「…伊吹、なんかあったのか?」


当然のように田中が恐る恐る聞いてくる。尋常ではない様子にさすがに気になるようだ。


「…1年間、ずっとデュースしてるようなモン」

「んだそれ」


少しして、ようやく試合が始まった。先方の監督のこちらを見る眼差しも恐ろしかったが、マネージャーとして控えると、更に元北一の選手たちのざわつきも聞こえてきて、居心地が悪いことこの上なかった。
本来ならばそれが選手に与える悪影響が気になるところだが、今は伊吹のことより喫緊の問題があった。


「おい分かってんな!?この前の3対3と同じ感じで、」

「分かってる!!」

「ほんとか?!」


日向の緊張が止まらないのだ。

最初のサーブは向こう、とりあえず様子見、というには強いサーブに対して、重要な第一球目のレセプションに入る。
主将にして守備の要である澤村が構えるが、それを割り込むように、日向がへたくそなレシーブをしてしまった。
影山の叱責が飛び、すぐに縁下がカバーするも、その不安定な返球ではさすがの田中もブロックを抜けなかった。金田一はまた背が伸びたのか、ほぼ190の壁となっている。
伊吹ですら、伊吹を巡るごたごたよりも日向のミスの連発に気が向いてしまう。選手たちは尚更で、なんとかフォローの言葉をかけるも日向にはすべて逆効果だった。

そして、青城のセットポイントというところで、なんと日向のサーブが来てしまった。


「…俺の緊張とか、些細なことっすね」

「…そうだね」


隣でノートにメモを取り続ける清水に言うと、心からの返事。主審の笛の音にすら驚いた日向のサーブは、見るからに不安定だ。


「後頭部サーブとかやんなきゃいいけど、」


バチコーン!!
盛大な音とともに、ボールは影山の後頭部を直撃し、力なく床をバウンドしていった。




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