連載: the other rather together−芽生え


尼崎に越してきてから1か月、夏休みが終わり、9月から新学期が始まった。

途中、侑と治は合宿で家を不在にしていたこともあったが、順調に新しい家庭での生活にも慣れて、このうだるような瀬戸内の暑さも当たり前になりつつあった。

新しいクラスでは早速不良然りとした伊吹をクラスメイトが避けるようになり、教師は成績のよさと素行の悪さにどう接すればいいのか分からなさそうにしていた。どうせ数か月で卒業するだけの場所であることもあって、伊吹は適当に過ごすつもりで一人を満喫している。



そんな中、9月も末に差し掛かり、暑さの中に秋めいた日差しを感じるようになった頃のことだった。



受験用の教材を買いに駅前に出ていた伊吹は、繁華街を歩く見知った金髪と銀髪を見かけた。侑の隣にいるのはセミロングの茶髪がカールした可愛らしい女子で、治の隣には黒髪ロングの女子。二組とも腕を組んで歩いている。

彼女がいるとは聞いていないし、確かフリーだとも言っていた覚えがあるが、最近できたのだろうか。そう思って少し見ていたが、侑と治の横顔を見て察した。
あれは彼女ではなく、そういう「フレンド」だ。少なくとも2人はそう認識している。
侑も治もいわゆるイケメンというやつで、バレーの応援にはファンクラブのような集団まで駆けつけるらしい。高校生といえど体格が良く、確かに男としてはかなりの上位存在だ。

まあ別に関係はないか、と伊吹はその場をあとにして本屋に入った。

それからしばらく、目当ての教材も買えて店を出ると、なんとばったり侑と治と例の女子の二組に出くわしてしまった。どうやらずっとこの辺りをふらふらとしていたようだ。


「えっ、伊吹!?」

「あー…侑、治、」


声をかけることはおろか近づくことも考えていなかった伊吹は、いきなり二人に会ってしまってどうすればいいのか分からなくなる。片方の女子はまったく興味も関心もない。もう片方の双子は家族だが、こういう場面ではなんだか知らない人のように感じられた。


「だれぇ?」

「あ、弟なんよ、」

「えー、弟なんておったっけ?でもめっちゃイケメンやね」

「まぁな、最近弟になってん。血ぃ繋がってへんけどイケメンやろ?」


侑と侑の隣にいる女子がそう話すが、侑はどこかぎこちない。治はハラハラとしながら見守っていた。


「そうなんだぁ。ウチ優奈、侑の彼女でぇす」

「はっ!?ちゃうねん伊吹!ちょお、俺ら別にそういうんとちゃうやろ!」

「え〜?ヤるだけヤっといてそれないわぁ〜」


何を慌てているのか、侑はなぜか取り繕うようにあたふたとする。伊吹はただの弟だ、恋人でもあるまいになぜ焦るのだろうか。伊吹は首を傾げつつ、興味もないため踵を返す。


「…俺行くから。じゃ、」

「へっ、ちょ、伊吹?」


ひらりと手を振って、女子たちには目もくれずに、伊吹は駅に向かう。どうやら女子の一方通行のようだが、双子も双子で分かっていながら軽薄な関係をつくったに違いない。せいぜい刺されないようにな、とは内心で思うだけだった。



***



侑は深夜のリビングで、ソファーに転がる治に「あかん」と泣きつくようにすがりついた。治は鬱陶しそうに払いのけて、侑はソファーとテーブルの間に落ちる


「ひどい」

「鬱陶しい」


侑はむくりと起き上がると、察して体を起こしてスペースを空けた治の隣に座る。侑も治も、双子らしく深刻な顔もそっくりだった。


「セフレとおるとこ見られた」

「しかも伊吹に」

「あの目ぇ見た?」

「完全に他人やった」


侑と治、交互に確かめるように口を開く。何度思い出しても、伊吹の他人行儀が忘れられない。


「まぁ外やし?どう見てもデートやし?そらとっとと離れるやろうけど、にしてもあんな興味ない、関心ないみたいな」

「実際、関心あらへんかったんやろ。侑も俺も、あんとき伊吹にとって興味のない存在やったっちゅーわけや」

「きっつ…なんでやろ、こんなんいつもは気にならんのに」


侑は溜息をついてソファーの背もたれにもたれた。普段は他人の目など気にしないにも関わらず、2人とも、伊吹の視界から外されたことにショックを受けていた。
思っているよりも深く、伊吹を受け入れているのか。すると、治が沈黙を破った。


「……あいつ、基本他人には興味あらへんやろ。でも、一度懐に入れたヤツにはちゃうねん。そういうタチしとる」

「せやなぁ……」

「せやから、あいつが前に俺らんこと肯定してくれたとき、そんで明らかに俺らには特別視してくれとるとき、心地良かったんや」


侑は初めて伊吹と会った日のことを思い出す。友人に囲まれる双子だが、本気でバレーに打ち込む傍らで蔑ろにしてきたことも多くて、それは敵もたくさん作ったし、周りの友人たちとも心の底では馴染んでいなかったのを、受け入れてくれた。
決してそれは2人にとって必要なことではなかったし、それがなかったからといって2人が病むようなこともなかった。

だが確実に、あのとき伊吹が認めてくれたことは、2人を楽にしてくれた。まだ高校生になったばかりで不安定な部分も多い2人にとって、落ち着くことができる、船の錨のような安定剤となったのだ。それは、伊吹のすっと通った1本の軸がもたらす、誠実さや優しさによるものだった。
だから、柄にもなく2人も優しくしてしまう。

今日遊んだ2人とも、いつもより気が乗らず、侑も治もとっとと帰ってきてしまった。もはや意図的に温もりを得なくても、2人のそばにはもっと心地良い暖かさがあると知ってしまったからだ。


「あー……これ、ホンマあかんヤツかもしれへんなぁ」


ぼそ、と治が呟いた言葉に、侑は声も出さずに頷いた。



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