温室の鳥籠−2
水泳の授業は4限だったため、授業後は昼休みになった。
水泳のあとは昼休みが少し減る上に、全身運動と食後、両方の睡魔が5限に襲ってくる最悪のコマ位置である。しかも5限は古文だ。夏になって水泳が始まってから、この時間は多くの生徒が机に突っ伏している。
伊吹は窓際の後ろから3番目あたりということもあり、よく見渡しているが、教師も諦めたように眠りこける生徒たちに指導していた。
着替えを終えて教室に戻ると、伊吹はいつも通り窓際の自席に座る。すぐに昼神が自分の弁当を持ってやってきて、前の席に陣取った。その席のやつはいつも学食に行っていた。
さらに隣のクラスの白馬も弁当持参でやって来て、伊吹の後ろに座る。
最後に、星海が遠く1組から弁当を持って来てやかましく伊吹の隣に座る。
この位置関係はいつも固定だった。
「あっちぃ〜、お前らプールだったんだろ、いいな」
星海はやって来るなりどかりと椅子に座り、パタパタと半袖シャツの胸元を扇ぐ。ボタンを第二まで開け半袖すら捲って肩を出した暑がりのエースは、空調が万全の校内でも暑そうにしていた。見た目は色白で髪の色素も薄いため涼しげなのだが、確かに汗をかいている。
涼しげといえば昼神もそうで、星海同様ボタンを第二まで開けているが、中から覗く赤いシャツは汗に濡れることはなかった。しかも昼神は長袖のシャツで袖を捲っている。
白馬は半袖のシャツ姿だが、図体がでかいため暑苦しい。とはいえ意外にもボタンは第一しか開けておらず、恐らく本人はそう暑がってはいなかった。
ちなみに伊吹は昼神と同じスタイルで、長袖シャツの袖を捲っている。しかしボタンは第三まで開いているし、シャツ出しもしている。開いた胸元からはVネックの黒いインナーが見えていた。半袖の黒いインナーはシャツの下に透けている。そしてもちろん、汗などかいていなかった。
「光来君は余計な動き多いしね、ここに来るまでだって無駄に走ったんでしょ?もうちょっと落ち着きなよ〜」
「なんッで走った前提だよ!」
「じゃあ走ってないの?」
「走ったわ!!」
決めつけられたことに怒りつつ、走ったには走ったらしい。あほくさ、と伊吹は内心で呟いて弁当箱を開いた。
しかしプールにいるときから寒かったのが、エアコンをガンガンに効かせた教室の寒さで拍車がかかり、「っくし、」とまたくしゃみを漏らしてしまった。
「やっぱ寒いのか?」
「え、伊吹寒ぃの?温水機能止めてもらえば良かったじゃん」
白馬が心配そうに後ろから声をかけてきて、星海は案の定なことを言ってきた。
伊吹は窓枠に背中を寄り掛からせて背もたれにしつつ、全員を視界に収めた。
「や、大丈夫……ひっ、くし」
「やっぱ寒いんだろ、だから俺があっためてやるって」
くしゃみをもう1発すると、ついに白馬が腰を浮かす。そろそろ背に腹はかえられないか、と伊吹も諦めがついた。単に遠慮でもなんでもなく、恥ずかしいからでしかなかったが、それよりも寒いものは寒い。
「じゃ、お前座椅子な」
「任せろ」
いったん伊吹は立ち上がり、白馬を自席に座らせる。白馬は窓枠に背中をつけつつ、なるべく椅子を空けるよう足を開いて座った。巨躯が収まりきっていないが、伊吹は余った椅子のスペースに座り、後ろの硬い背もたれにもたれた。
すかさず白馬は腕を回して後ろから抱き締めてくる。
「芽生君ずる〜」
「芽生お前座椅子なんだから喋んなよー」
幼なじみの二人は白馬に息を合わせて言うが、白馬は気にせず右手だけで器用に弁当を食べ始めた。
腹に回された太い左腕と、背中に触れる体は温かく、身長差30センチということもあって包み込まれる温もりが悪くなかった。
「食いづらくねえの」
伊吹は一応すぐ後ろに聞いてみたが、白馬は首を横に振った。
「問題ない。伊吹はもう寒くないか?」
「ん、大丈夫。さんきゅ」