連載: rack up, good luck !−3


第1セットを落としたのはまだいい。ミスもいい。しかし、このタイミングで、影山の後頭部を直撃するサーブを打って、それによってセットを落としてしまったという事実は、まさに日向にとって致命的だった。


「お前さ、」

「はい…」


そんな日向に、影山は世にも恐ろしい表情で影を作りながらとてつもない圧力をかけた。セット終了後の弛緩した空気の中、2人のところはまるで極地だ。


「いったい何にビビッてそんな緊張してんの?」


ぶわっと汗が噴き出す日向。その様子に、菅原はいつでも止められるようスタンバイし、澤村もドリンクを飲みながら構える。田中はわりとなんでもないように見ていた。


「俺の後頭部にサーブをぶち込む以上に怖いことって…なに?」

「とくにおもいあたりません」

「じゃあもう緊張する理由はないよなぁ!もうやっちまったもんなぁ!一番怖いこと!」


瞳孔を開いて自身の後頭部をスパァンと手で弾く影山は、正直先輩である伊吹も近づきたくない。つとめて明るく言っている感じがもうだめだ。


「…それじゃあ、とっとと通常運転に戻れバカヤロー!!!」


しかし影山の怒りはそれで終わったようで、日向も拍子抜けしたようにする。もっと怒るかと思ったが、影山はミスそのものを咎めるようなことは言わなかった。


「おいコラ日向ァ!!」


そこへ怒鳴り声をかけたのは田中だった。田中も田中で、もともと人相が悪いので怒っているように見えるが、あれは怒りの顔ではない。澤村もそれは分かっているようで、引き続き止められるようにしつつも見守る姿勢だった。


「お前、他のヤツみたいに上手にやんなきゃとか思ってんのか一丁前に」

「…ちゃ、ちゃんとやんないと…交代、させられるから…おれ、最後まで試合、出たいから…」

「……おい、」


どうやら日向の緊張の根幹は、試合に出られなくなることへの恐怖だったらしい。確かに、素人同然の日向は、その運動神経を最大限に活かせる影山のトスなしでは評価しがたい。バレーが好きで好きで仕方ないからこそ、緊張で吐いてしまうほど試合にかける思いが違うのだ。
それを聞いて、田中はやはり、怒ることはなかった。


「ナメるなよ!!お前がへたくそなことなんか分かりきってることだろうが!!分かってて入れてんだろ大地さんは!!」

「…??」

「いいか、バレーボールっつうのはなぁ!!ネットの「こっちっ側」全員!もれなく味方なんだよ!!」


その声量で放たれた言葉に、日向はパッと顔を上げる。影山も、澤村も月島も縁下も、日向に対して怒っているものなど最初からいない。


「へたくそ上等!迷惑かけろ!足を引っ張れ!それを補ってやるための!チームであり、センパイだ!!」

「…かっけぇじゃん、あいつ」


自分で格好いいこと言った、と分かっているタイプのどや顔で言っているのが残念であるが、しかし田中のまっすぐな言葉は、一瞬で日向のぐるぐるとした思考回路をクリアにできたようだ。

その後始まった第2セット、こちらはようやく日向と影山の速攻が決まり、チーム全体のエンジンがかかってきた。その勢いにより、だんだんと集まって来たギャラリーの雰囲気をものともせず、終始セットを優位に進めていく。
僅かとはいえ確実に点差を維持したまま試合は展開され、そしてついに、烏野は第2セットをもぎとった。



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