無着者の執着−2
よく分からないやつ、という印象だった昼神と二人きりになってしまったのは、それから少しして梅雨になってからだった。
部活を終えて、伊吹は着替えて日誌を書いていた。この日は片付けで順序を間違えて盛大に時間をロスしたせいで手間取り、すっかり遅くなってしまっていた。他の部員たちが帰ってからも、一人で残って机に向かって日誌を書いていると、扉が開く。
「あれ、朝倉君?」
「…昼神、なにしてんの」
「ちょっとね。朝倉君は日誌?」
「あぁ」
昼神は近くまで来ると、伊吹の手元を覗き込む。「字綺麗だね、頭いい人の字って感じ」と感想を述べてきたので、「見てんじゃねえ」と返した。
しかし昼神は近くの椅子をもう一つ動かして、伊吹の正面に机を挟んで居座った。机に肘を突いて、思い切りこちらを眺めてくる。
「…なんだよ」
「ちょっとね」
先ほどと同じ答えだ。こんなマイペースなのか、と思ったが、そういえば星海が白馬たちと話しているときに昼神と星海はともに末っ子だと言っていた。
気にせずに書き進めていると、昼神がおもむろに口を開く。
「俺、ここんとこなるべく帰りたくないんだよね、家に」
「…へぇ。喧嘩?」
「興味なさそう」
「興味ねえし」
「あはは」
適当に返すと昼神はすぐに分かったようで、けらけらと笑う。伊吹は特段仲がいいわけでもない昼神の込み入った事情に踏み入るつもりなどなかったし、興味もなかった。
「…この前、部室で他のやつが噂してたじゃん?」
「……機械みたいってやつ?」
「そうそう。あと熱意がないってやつ。結構、人のこと見てるもんだね、あいつらも」
「熱意がねえのは事実なんだな」
「まあね。ぶっちゃけそんなバレー好きじゃないし。辞めよって思ったら辞める」
全国的に名を知られるプレイヤーから出て来るような言葉ではない。昼神の家は全員バレー関係者だとも聞いた。
「大学は多分、続けないと思う。でもそれを家族に言うの、なんかなかなか踏ん切りつかなくて。だからちょっと、勝手に帰りづらくなってんの」
「…それを俺に言ってなんか意味あんの」
「さぁ。俺もよく分かんない」
それを聞いて、伊吹はようやく顔を上げた。昼神の顔を見れば、昼神は顔を上げると思っていなかったのか、少し驚いたようにこちらを見ていた。
「口で言うよりお前、悩んでんだろ」
「え…」
「口調は確かに感情の薄い緩い感じだけど。そうやって自分のこと誤魔化してんじゃねぇの」
昼神は虚を突かれたように、目を軽く見開く。
自分でも分からず無意識に伊吹に話していたそうだが、それにしては内容は軽くない。そして、昼神にしては珍しく、明瞭でもなかった。緩い温厚な性格だが、昼神は常に合理的でいようとする。その冷静さが見当たらなかった。
だから、口で言うほど軽くはないと、少なくとも昼神の心の深いところでは感じているのではないかと思ったのだ。