無着者の執着−4
昼神は軽く笑ったが、相当苦しかったはずだ。好きなはずのものが自分を苦しめることになり、そうだと認めることができず、八方ふさがりになってしまうのだ。それはあまりに、苦しい。
「家族がやってたから始めた。環境を整えて貰えて、体格やセンスにも恵まれて。それって全部たまたまなんだよね。たまたまそういう条件が揃ったから、俺は、バレーが好きじゃないのに全国でスタメンやれちゃったんだ」
それは、その「たまたま」が揃わなかったがために苦しむ全国の何百万という人々にとって残酷な現実だろう。好きでもないのにできてしまう、そんな人間は往々にしているものだ。
「俺のそんな態度が見えちゃった人はさ、もしかしたら俺のこと嫌いになるかもしれないし、しょうがないと思う。あの噂話も、聞いててこいつらいいやつなんだなって思ったよ」
「…好きじゃなくても数学ができるやつもいる。好きじゃなくてもエクセルが得意なやつもいる。学校の授業も、社会に出て働くことだって、好きでやってることじゃねえことのが多いだろ。部活だけは好きでやってなきゃいけねぇなんてのはダブスタだ」
「…うん、そうだね。そっか、世の中そもそもそんなモンか」
昼神は納得したように呟いた。もう西の空にはオレンジは見えず、二人の上は完全に夜空になっていた。
「で、なんで家族にもう大学の話すんだよ」
「あぁ、そうそう。俺がこうやって好きでもないのにやってるからさ、家族も俺の熱意のなさっていうか、小手先でやってるように見えたみたいで。『もっと全力で打ち込め』って父親と兄ちゃんに叱られたから、言ってやろうか迷ってて」
家族にはもっと我武者羅にやるよう言われたらしい。そういうのが嫌いな仙台の後輩を思い浮かべる。冷静に体力を残すことで試合後半でも精度の高いプレーをできるあの後輩のように、昼神も好きでないが故に、チームも試合そのものもこだわりがなく無着であり、だからこそ冷静沈着なプレーができるのだ。
大量の情報を処理し精度の高いプレーをするのに、チームメイトの期待や思い、勝ち負けへのこだわりや目の前のプレーそのものへの執着は邪魔だ。それは昼神を不自由にする。
「俺は確かにバレーっていう競技にも部活にも仲間にも無着っつか、どうでもいいって思えることがたくさんあるけどさ、さすがに家族はそうはいかないじゃん?あくまでバレーと部活だけであって、他のことまで俺は気にしないわけじゃない」
「それで帰りづらくてなるべく遅くまで学校に残ってたわけな」
「そういうこと。バレーが実は好きじゃなくて、こんなんじゃ大学でもやってバレーの道に進むなんてさすがにできないから、高校で辞めるって話をしたいんだけど、なかなかね。寮つきの中学や鴎台に通わせてもらって、遠征でもお金かけてもらって、それなのに好きじゃなかったなんて、やっぱ言いづらいし」
「…ほんと、俺とわりと同じなんだな」
話を聞いていると昼神の状況が伊吹と似ていて、思わず苦笑する。昼神は「そういえば」とこちらに視線をやった。
「なんで朝倉君も帰りたくないの?」