無着者の執着−8
とっくに後戻りができないことに互いに気付いていながら、決定的なことを何も言わずに夏が過ぎた。9月に入り学校が始まったが、距離はさらに近づき、星海に「お前ら…」と呆れられることも増えた。
そんな9月前半の日曜日、顧問も監督もコーチもたまたま不在になるということで、部活が午前で終わることになった。
またとない機会であることもあって部員たちは遊びに行くことにしていたが、伊吹は午前の分の片付けがあることや、不必要に金を使いたくないこともあって、誘いを断った。
そして昼神も断り、部室には二人だけとなった。
「…お前、行かなくて良かったのかよ」
日誌を書きながら聞けば、この時間の定位置となった正面に座った昼神が「んー」と気の抜けた返事を返した。
「伊吹と二人きりになれるって思ったら断ってた。恐いね〜、無意識って」
「友達減るんじゃね」
「伊吹がいればいいし」
思わず日誌を書く手が止まったが、静かに再開させる。昼神は直接的なことを言うようになったものの、もっとも直接的なことを言うことはしなかった。
「でも俺、ファミレスとか行かねえし、カラオケも行かねぇぞ」
「いいよどこでも。あ、俺ん家……」
「?昼神?」
不自然に言葉を止めた昼神を見上げると、「なんでもない」と笑う。
「いつもの公園行こ」
「別にいいけど…」
結局いつも通りの流れになって、伊吹は日誌を書き終えて立ち上がる。いつも通りバッグを肩にかける。
昼神も伊吹も今日は日曜なのでジャージ姿だ。
学校を出ると、むわりとした湿気が肌に纏わり付く。不快な気分になりつつも、いつもの住宅街を公園へと歩く。
とりとめもないことを話していると、突然、頬に冷たい衝撃が走った。
「げ、雨か」
「マジ?わ、ほんとだ」
雨粒はどんどん勢いよく落ちてくるようになり、曇天からゴロゴロと音がする。
ゲリラ豪雨だ。
「っ、最悪」
「学校戻るよりあのベンチのとこのが早い、走ろ!」
二人はすぐに全力で走り出したが、公園に着いてベンチの東屋に着いたときにはびしょ濡れだった。雷鳴はほとんど聞こえなくなり、空も明るくお天気雨に近い模様だったが、依然として大粒の雨が降っている。
「…くそ濡れた……」
「伊吹大丈夫?寒くない?」
「これくらい別に…ひっくし、」
「絵に描いたように全然ダメじゃん…」
ベンチに座ると体温を持って行かれそうで、鞄を置いてタオルで髪と腕を拭いたが、濡れたシャツが肌に張り付いて冷たくなる。
その寒さにくしゃみをすると、昼神は呆れたようにするが、自分のジャージを鞄から取り出して伊吹の肩にかける。
「体冷えるよ」
「選手のお前こそ冷やしちゃまずいだろ」
伊吹は返そうとするが、昼神は「ダメ」と言って聞かない。
「ほんとは俺の家に上げてあげられればいいんだけど、誰もいないからさ」
「…誰もいないからなに?」