無着者の執着−9
誰もいないことと家に上げられないことの因果関係が分からず首を傾げる。許可がないと上げられないということは、よく星海を勝手に上げている話を聞くからには考えられない。
昼神は伊吹をちらりと見てから視線を前にやる。そして口元を手で覆い、「あー…」と言いづらそうにした。
「なんだよ」
「……ちょっと、さすがに、自信ないんだよね」
「親の許可降りる自信?」
「ちがくて……」
ここまで昼神が言いあぐねることも早々ない。伊吹は雨音を聞きながら言葉を待った。その圧に屈したのか、昼神は手で口元を覆いながらついに答えた。
「……手ぇ出さない自信がない」
「………」
ざあ、と雨の音だけが響く。
頭の中で昼神の言ったことを反芻する。手を出さない自信がない、とはつまり、そういうことだ。
伊吹は少し呆れる。ここまで来て、まだ昼神は言わないらしい。それなら伊吹も、まだ間接的な言い方だけにしてやろうと口を開いた。
「……別に、いいけど」
「…へっ、」
「……おまえなら、いい」
再び沈黙が落ちて、雨に混じって冷たい風が吹き抜ける。その風が心地良いとすら思えるほど、伊吹は顔に熱が集まってくるのを感じていた。
「伊吹、」
すると昼神は声音を変えて、こちらに向き直った。その真摯な声に、伊吹も向き合うように体の向きを変えた。
「…好きだ。付き合って、ください」
昼神のまっすぐな目線が伊吹を貫く。雨に濡れてもウェーブがかかった髪から、米神を水滴が伝うのが見えた。濡れたシャツが張り付いた逞しい胸板の下では、同じように心臓が煩く鳴っているのだろうか、と考えてもしょうがないことが頭にチラついた。
昼神のことは特別だ。同じような考え方の人間と会えるということは、自分の考えに共感してもらうこととは異なる。認めてもらうのではなく、同じだと確かめ合うことの方が、遥かに安心するのだ。
そして、居場所になってくれると言った昼神の言葉は、この街にやってきて、環境にも家庭にも慣れず不安定だった伊吹を安定させてくれた。
「……俺も好きだ。お前、ぜってぇ重いだろうなって分かってんのに、それに安心してんの。だから責任取って、俺にずっと執着してろ」
「……ふっ、言い方」
「事実だろが」
「うん、事実」
互いに小さく噴き出すと、昼神は伊吹をそっと抱き締めた。濡れたシャツどうしに触れるのは不快なはずなのに、やはり思った通り、胸板越しに昼神の心臓の鼓動が激しく伝わってきて、伊吹はついそこに手を当てる。
「超うるせえじゃん」
「しょうがないでしょ」
昼神はそう言って伊吹の胸元にボールをドシャットしてきた大きな手の平を当てる。その指先が、濡れたシャツを挟みつつ伊吹の胸の先を引っ搔いた。わざとではないようだが、昼神に与えられる感覚すべてに意識を向けていた伊吹はつい「ん、」と声を漏らしてしまった。
「………ごめん」
「や……俺も悪い、」
謝ったくせに昼神は手をずらさず、伊吹もそれを指摘しなかった。最初の夜のように、伊吹は昼神の肩に頭を預ける。
縋るようなそれに、昼神が喉を鳴らす音を響かせた。