無着者の執着−11


伊吹が風呂場で準備を済ませたあと、昼神も交代でシャワーに入った。伊吹は昼神の部屋に通されて、ベッドに腰掛ける。意外と綺麗だな、と思ったが、よく見ると服や教科書が勉強机の下に押し込まれているのが見えた。
フローリングの床に座ることに抵抗はなかったが、昼神を呼ぶために部屋に来たときにベッドに座っていたので倣った形だ。

用意して貰った昼神の服は当然のように大きく、ハーフパンツは膝下の脛まで達していたし、シャツは股下まで裾がある。体格差に愕然としつつ、ハーフパンツがずり落ちないよう腰に手を当てて他人の家を歩くことが心許なかった。

待っている間に改めて男同士の作法をスマホで調べていると、階下から上がってくる足音がした。伊吹はスマホを勉強机の上に置こうと立ち上がり一歩を踏み出したが、腰を押さえるのを忘れており、ストンとハーフパンツがずり落ちた。やべ、と思った瞬間、扉が開いて昼神が入ってくる。

ばっちり目が合って、ついで昼神は伊吹の足下に落ちたハーフパンツを見て、そして大きなシャツでギリギリ隠れた部分を凝視する。


「っ、や、これは違くて、マジほんとサイズ合わないから、」

「……はぁー……風呂場で冷静になろうと冷水浴びたのにさぁー……」

「いや暖まれよ」


何をしているんだと冷静に突っ込むが、昼神は聞かずにこちらに歩み寄ると、無防備な伊吹の腰を強く抱き寄せる。


「秒で勃ったんだけど」


そして、緩く立ち上がったそれを伊吹の骨盤あたりに押し付けてきた。他人の固さを知るのは初めてで、伊吹の肩が跳ねる。


「優しくしたいけどさ、こんなあざといことされたらね。マジ、覚悟しとけよ」


低くそう言った途端、昼神はキスを仕掛けてきた。すぐに舌をねじ込まれ、上顎をなぞられてビリビリとした快感が走る。
再び後ろ首筋を指先で擽られ、大きな手の平が尻を鷲掴んだかと思うと、下着をするりと下ろした。いわゆるノーパン彼シャツ状態だ。

そして口を離すと、後ろに追い立てられ、ベッドに押し倒される。友人だった恋人の初めて見る「男」としての動作にドキリとした。

伊吹に覆い被さる昼神が見下ろす目には余裕などなく、笑みもなかったが、しかしその瞳には愛しいという感情が滲み出ていた。


「本当に嫌だったら言ってね、なるべく頑張る」


シャツの裾から手を差し込みながら言う昼神に、伊吹は首を横に振った。


「ぜんぶ、おまえに預けてやる」

「っ、ほんと、伊吹はさァ…!」

「んっ、」


昼神はぎゅっと胸の先をつまんできた。普段なら意識などしないようなそこは、昼神に触られた瞬間に露骨に快感を頭に運んできた。甘く痺れるような感覚が下半身に溜まっていくようだ。


「んあ、ひる、がみ…!」

「名前で呼んでよ」

「っ、さちろ…っ、」

「かわいい」


昼神は恍惚と言うと、シャツをたくし上げて、胸元に吸い付いた。唇に吸われ、舌で舐められるとさらに強い快感が走った。


胸元を責められ、伊吹の自身も立ち上がると、昼神はそこを軽く扱いて責め始める。他人に触られたことのない場所のため、伊吹はびくりと体を震わせる。


「どっちが気持ちいい?」

「ぁっ、ん、はっ、んなこと、聞くな…!」

「え〜、聞かなきゃ分かんないなぁ」


そう嘯く昼神は、軽く胸先に歯を立てた。鈍く重い快感がビリビリと脳に走る。


「ッ、あぁッ、んっ!」

「かわいい声でたね」


こいつドSだ、と伊吹が内心で毒づくが、正直昼神はそんなタイプではないかと思っていたのも事実で、何よりそうやって責められることに興奮している自分もまたしょうもない。


「そろそろこっち、弄るね」

「っ、」


すると昼神は、シャツを脱いでローションを取り出す。逞しい上体が晒され、大きな手の平に透明な粘度の高い液体が落ちていく様が生々しい。


「よく持ってたな、そんなん」

「天ゾンの兄ちゃんの名義で買ってたんだよね」

「何のためにだよ」

「え、あれ」


昼神が指さした先には、ローションが入っていた箱の中に鎮座する、赤と白の縞模様の曲線を描いた筒があった。自分用のようだ。


「ふっ…こだわるタイプっぽいんもんな…」


おかしくて声を震わせて笑うと、昼神も「まあね」と笑った。そして、手の平で温めたローションをそっと伊吹の後ろに宛がった。


「っ、」

「力抜いてね」

「わかった…」


皺を広げるように、後ろを撫でていく。円を描くような動きは、ローションによってヌルヌルとしていた。
なるべく、ネットで見た通りに、力を抜いて、いきむときのように意識する。
すると、徐々に指が中に入っていくのが分かった。


「痛くない?」

「大丈夫」


昼神は「覚悟しとけ」なんて言っていたが、案の定、優しく伊吹に気を配りながら進めていく。ベッドに投げ出されていた伊吹の手を、後ろを弄っていない方の手で握って、手の甲を撫でる。その何気ない仕草が優しかった。



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