水平線上の後悔−2
仙台市の北東、海に面した港町が塩竃市だ。複雑な海岸線を描く宮城県北部らしく、町の地形は非常に独特になっている。
「でもなんでわざわざ塩竃なんすか?」
「親父いわく、回転寿司だけどすげえ美味え寿司屋があんだってさ。ま、この辺はどこも美味えんだろうけど」
世界三大漁場を有し、日本有数の米所でもある宮城県の寿司はどこもレベルが高い。同じような条件が揃う新潟県も然りだが、三陸沖と日本海では漁場環境が異なる。親潮と黒潮がぶつかる三陸沖はやはり別格だ。
仙台市から下道を通って塩竃へと向かっていくが、岩泉はカーナビに頼らず走っている。すでに道を覚えたのだろう。
40分ほど走って、車は目的地に着いた。東北本線の線路沿いにある、回転寿司にしては少し小さな店だ。しかし、それなりに人が並んでいる。
岩泉はさっとスマートに駐車場に車を入れると、空いた場所に後ろ向きで入っていく。カーナビは背面の映像に切り替わるが、岩泉はそれをちらりとしか見ず、伊吹の座る助手席のヘッドに手を置いて後ろを見るためにぐっと顔を近付けた。
それにドキ、と思わずしてしまう。
岩泉は難なく駐車し、エンジンを止める。そして、伊吹の唇をさっと掠めるように奪った。
「ッ、!?」
「ほんとかわいーなお前。ちょっと待つみてえだし、名前書いてくっから待ってろ」
岩泉はそう言って車を出て行った。エンジンも止まり沈黙の満ちる車内に、近くを走る東北本線の電車の音だけが響く。
「なんだあのひと……」
思わず呟くと、サイドミラーに映る自分の顔が赤面している気がして、冷たい窓に頬を押し付けた。
少しして岩泉が戻ってくると、「15分くれえで名前呼ぶんだと」と言って運転席に戻った。しばらく暖かい車内で待つらしい。
もう一度、伊吹は隣の岩泉をちらりと見上げる。
「…ん、どした?」
さすがに視線に気付いたのか、ちらりとこちらを見る。
「…かっけえなぁ、って」
「ふは、そっか」
「学校終わってから教習所行ってたんすよね」
「おう、周りは受験だからあんまあからさまにはしてなかったけどな」
「じゃあ、免許取れたから部活顔出してくれんすか」
もう時間はあるだろう、と言外に言ったが、岩泉は苦笑する。
「俺らが頻繁に顔出したら締まらねえだろ。京谷もお前の言うことは聞くし、矢巾もお前に支えられながらきちんとチームメイクできてる。渡は元からしっかりしてるしな」
岩泉はそのあとも、金田一は誰とでもやれるし、国見も伊吹に懐いているから、まとまりやすいだろうと評した。それは決して間違っていないし、そういう1年と2年の関係性の構築にあたっては3年の目がない方が良いのも事実だ。
「…じゃあ、俺はどうなんすか。矢巾たちはいいけど、俺は」
ぽつりと呟いてしまったのは明らかな弱音だ。伊吹はしまった、と内心焦るが、岩泉は左手で伊吹の頭をがさがさと撫でた。
「わっ、」
「今はいいけど、運転中に可愛いこと言うなよ、事故るから」
「なに言って、」
「やっと引退したんだ、これからは部活以外で伊吹と会える」
岩泉はニヤリとしてこちらを見下ろす。
「邪魔者なしで、二人きりになれんだ。部活くらいしっかり自分たちでやれ」
「……ずるくねえっすか、ほんと」
「まぁな。ほら、そろそろ店の前行くぞ」
岩泉がスマホとサイフを尻ポケットに入れながら外に出たため、伊吹も後に続く。今まではあまりこんな直接的なことは言わなかったくせに、今日はこんなにもダイレクトな言葉を掛けられて、伊吹は心臓がもたなさそうな、そんな気になった。