目に見えずとも−3
伊吹と澤村は20分ほど歩いて、近くのヨークベニ○までやって来た。大型スーパーと百均、ホームセンターが一カ所に建てられているタイプの、東北の田舎にありがちな場所だ。平日の昼間だが、そこそこ車が駐車場に並んでいる。白や黒のボックスタイプの軽がオセロのようだった。
近くには中学や商業高校などがあるため、ここには部活で使うようなスポドリの粉末やスクイズボトル、さらにはジャージやテーピングなど本格的な品揃えだった。
東京での合宿で、近くのスーパーで揃わないどころかスポーツショップが林立していることに驚いたのを覚えている。
スーパーで必要なものを買ったら百均で消耗品をまとめ買いして、買い物リストをすべてクリアしたときには二人とも両手が塞がっていた。
「これだけ買えばしばらく保つだろ」
「むしろ、春高で勝ち進んで使ってもらわねえと来年度繰り越しっすよ」
「それは負けられないなぁ」
笑い飛ばした澤村と帰路につこうとすると、澤村は「お、」と何かに気付いて国道の反対側にあるコンビニに向かっていく。学校がいくつかあるため、ここには信号があったが、もう少し南の福島側に行くとしばらく信号のない横断歩道が続く。
「買い忘れっすか」
「いや、せっかくだし肉まんでも買おうかなってな」
「肉まん……」
最近は練習量が増えて帰り時間が遅くなったことや、寒さが本格化して体調を崩す可能性が高くなっているため買い食いは控えていた。伊吹もバイトを減らしている。
そのため、こうして澤村に奢って貰うのは久しぶりな気がした。
澤村が肉まんを買っている間に荷物を片方預かる。さりげなく重い方を持っていた澤村に軽い方を返そうと考えていたが、レジで澤村は「ちょっと持っててくれ」と肉まんの入った袋を渡してきたため、つい荷物を両方渡してしまい、澤村は重い方を元通り回収してしまった。
「あ、」
「お見通しだぞ伊吹、俺が恋人に重いモン持たせるわけないだろ」
コンビニの外に出て軽い方を渡されて気付いた伊吹に澤村はそう笑った。いつになったらこの人に勝てるのだろうと伊吹は溜息をつく。
二人は駐車場と店の間にあるガードレールに座り、荷物を置いて肉まんを取り出す。大きく開けた駐車場と国道から冷たい風が吹き付けてくる気がして、二人並んで駐車場を背にコンビニ側を向いて座った。駐車場には車の姿がなく、離れた場所にトラックが一台あるだけだった。店内の様子はブラインドが降りていて、雑誌ラックの向こうが辛うじて見えるかどうかといったところだ。
「やっぱコンビニの美味いな」
「そっすね、ありがとうございます」
「おう」
坂下商店のような個人商店よりもやはり美味しいのは事実だが、部活帰りに部員たちと喋りながら食べるパサついた肉まんに替わるものは、きっとこれから先の人生に二度と現れることはない。
寒いからだろうか、最近はよくこんな感傷的なことを考えてしまう。否応なしに訪れる別れのときが恐くて、伊吹は誤魔化すように右隣を見上げる。
「大地さん、引退してからもこんな食ってたらマジで太りますよ」
「奢ってもらっておいて悪口か〜?」
澤村は笑いながらわしゃわしゃと伊吹の頭を混ぜ返す。軽く抵抗するも、フリでしかない。そして澤村は手を離しながらボサボサになった髪を直す。