連載: rack up, good luck !−また、もう一度
講評も終われば、あとは締めるだけだ。ある程度片付けを手伝いつつ、大部分の後片付けは青城の1年生たちがやっていた。
そして、ついに鬼気迫る表情のゴリラがこちらへ歩いてきた。その後ろでは、金田一と国見がそわそわとしていて、更にその後ろでは及川が凍てつく笑顔を浮かべてゆったりとこちらへ向かってくる。
「か、影山、無理だ」
「え、何がっスか」
そんなことに気づかない影山を盾にすべくその背中に先ほどのように抱き付く。汗をかいているはずなのに良い匂いなのはイケメンの特権か、とくだらないことを思うくらいには目の前の光景が恐ろしかった。
影山はよく分かっていないながらも、体の向きを変えて伊吹を正面から抱き締めた。よく分かっていないのによくもこんな姿勢を取ろうと思ったものだ。伊吹の鼻梁が影山の肩に押し付けられるような近さは、この後輩とは初めてのものだった。
「おい影山…そいつを引き渡してもらおうか…」
岩泉の低い声がかけられる。普段真面目な岩泉がそんなことをしているからか、広い体育館に散った他の生徒たちもこちらを見てくるし、烏野メンバーは尚更だった。
「朝倉さん嫌がってるんで。すんません」
「ウチのマネージャーがなんかしたか?」
見かねて、主将たる澤村が一歩進み出た。岩泉はちらりとそちらを見ると、同じ主将だからか、及川の方へ視線を更に向けた。阿吽の呼吸というやつで、及川は心得たとばかりに澤村に対峙する。
「中学時代の後輩だからさ、ちょっと話したいんだよね。…伊吹、逃げないで」
「っ、」
及川は笑顔の冷たさのわりに、その声には寂しさというか、必死さが乗っていた。逃げる、まさにこの1年間伊吹が彼らにしてきたことだ。今日ここで逃げたら、もう、本当にあの頃のようには戻れなくなってしまう。それでもいい、と割り切るようなことができるほど、伊吹はドライになれなかった。
伊吹は躊躇いつつも、影山から離れる。そして、烏野メンバーの心配そうな目線を感じつつ、岩泉と及川の前に向き合った。どんなことを言われるのか怖くて仕方がないが、今日ですべてけじめをつけるべきだ。
そう身構えていると、突然、岩泉が頭を下げた。がばりと音がしそうなほど豪快なそれに、伊吹だけでなく烏野も、後ろにいた金田一たちも驚く。
「悪かった!お前の家の事情、あのとき聞いときながら、ひでぇこと言っちまった。1年も俺らを避けてたくれぇだから、会うのも嫌かもしんねぇけど…」
どうやら岩泉が今日一日恐ろしい形相だったのは、恐らく、絶対に謝るという強い決意が先行していたからなのだろう。潔く頭を下げているが、それすら、彼の中でどういう葛藤があったのかと思う。
「…あのあと連絡も取れなくなって、どの学校に行ったのかも分からなくんって、俺も岩ちゃんもめちゃくちゃ心配してたんだよ」
及川も、意外にも静かにそう口を開いた。怒っているというより、感情を抑えているよいうな感じだ。
「…あんとき、帰り際にスマホぶっ壊して…キャリアごと変えたから、番号もなんもかも変わったんすよ」
「ほんとそういうとこあるよね伊吹…うん、伊吹のいろんなところ知ってるのに、あのとき責め立てた俺たちが悪い。ごめんね」
及川まで粛々と謝ってきて、伊吹はどうすればいいのか分からなくなる。てっきり怒り狂っているのかと思っていたからだ。