連載: rack up, good luck !−2


「俺たちもすげー心配してたんスよ!ずっと連絡とれねぇから…」

「スマホ壊してキャリア変えるとか…」

「…そ、それはまぁ…俺も悪かった」


金田一と国見は、単に去年1年間連絡が取れなかったことをとても心配していたようで、それはさすがに忍びないので謝ればホッとしたようにした。不愛想だったはずなのに、なぜだか後輩たちは伊吹に懐いてくれていた。そんな彼らに音信不通でい続けたのは、先輩として、伊吹も引け目はあった。


「っていうかね、俺たちはあのときもそうだけど、伊吹にもっといろいろ話して欲しかったわけ!頼って欲しかったわけだよ!分かるかな!?」

「…、うす…」


後輩たちのおかげで弛緩したと思われた空気は一転、及川の軽いながらも強い口調で再び緊張する。
あのときは伊吹も苛立って、「相談すれば家族と離れることにならなかったんすか」なんて言ってしまったが、彼らが言いたかったのはそういうことではないのだと今は分かる。
思い悩む前に相談してくれれば、何か言葉にしてくれれば、そう強く思う経験を、「あのとき」したからだろう。渦中にいたヤツが1人、そろそろ戻ってくる頃だが、もう1人はどうだろう。そんな不安を、ずっと彼らに感じさせ続けて来たのだ。


「と、いうことで伊吹。俺のトス打ってくれたらこの1年のことは水に流すよ」

「……は、」


及川が突拍子もないことを言うのはよくあることだったが、こうも唐突に言われると咄嗟に反応できない。及川のトスを打つことがどうして贖罪に繋がるのが分からないし、そもそも「ごめんね」「いいよ」のやりとりで終わることではないのだろうか。


「たまにはいいこと言うじゃねぇか及川」

「たまにはって何かな岩ちゃん」

「俺は…見てます」

「え…俺も無理」


阿吽の方は乗り気で、岩泉はブロックを飛ぶ気満々だ。一方で金田一と国見は顔を青ざめさせてすごすごと引き下がった。


「えっ、朝倉さんスパイクするんスか!見たい見たい!!」

「及川さんいいな…」


日向は目を輝かせ、影山は羨ましそうに及川を見やる。澤村や菅原も「久々に見れるなぁ」なんて乗り気になってしまっていて、もう味方はいないのだと悟る。逃げ場がないのを見て及川はニヤリとした。


「…一球だけっすよ」

「そうこなくちゃ!よし、じゃあまっつんとマッキー、岩ちゃんと一緒にブロック飛んで!」

「えぇ、金田一すら露骨に嫌そうにしてんじゃん、北一こえーよ」


どうやら三枚ブロックを飛ばせたいらしい及川は、3年のレギュラーである松川と花巻に声をかける。花巻は金田一たちの様子を見て、北川第一出身という伊吹の経歴から、何やら不穏なことに巻き込まれるのだと嫌そうにしていた。


「1年もマネしてたヤツにブロック抜かれるとか青城の恥だよマッキー!」

「へぇ〜…?」


及川は相手をイラつかせる天才だ。花巻と松川は嫌そうにしながらも、及川にそう言われて断るのもプライドが許さず、思い通りになっている現状そのものにイラついているようだった。
そんな及川だが、セッターとしての実力は本物だ。チーム全体の底上げをするセッター。伊吹も、そのトスを何度も打ってきた。

ネットを挟んで及川と伊吹、岩泉と松川と花巻のブロックが相対する。体育館中から期待の籠った視線を向けられるのが煩わしい。だが、こうして及川のトスをコートで待つことがまたできるのだということに、どうしてもワクワクとしてしまうのも事実だった。

伊吹はボールを受け取り、及川を見やる。セッター位置で、及川は一つ頷いた。
それを見るなり、伊吹はボールを及川に投げた。それを及川は両手で空中に跳ね上げ、美しいオープントスを打つ。助走する伊吹はまっすぐブロックがいる方へ、ブロックも完璧なタイミングで膝を曲げて飛び上がる。

そして、伊吹は飛んだ。かざした左手の先に、ボールが落ちてくる。それを、全身の体幹とバネ、軸となる筋肉を使って体全体でアタックした。右手に当たるボールの感触は一瞬で、それはすぐに、ブロックの松川と花巻の間に向かってとてつもない威力でもって放たれる。

ボールは狙った通り、松川の左手と花巻の右手それぞれの小指付近に当たり、最も力の弱い部分に当てられてボールはブロックに阻まれ切らず、三枚ブロックは崩れた。
その直後、ボールは相手コートに爆音とともに落ち、高くバウンドした。


「いってぇ!!」


遅れて、静寂の体育館に松川のそんな声が響き、それにハッとしたようにざわめきが満ちた。



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