SS小話集−抱かれたいのは(稲荷崎)
稲荷崎1年マネ男主
連載設定
総受け、銀島・北寄り
「ホンマ双子ってモテるんやなぁ」
銀島のそんな声に嫉妬は特になく、単純に感心しているだけだった。
部活が終わった放課後、すっかり日が暮れた空の下、帰路にに着こうとしていたレギュラーメンバーは、侑が女子に呼び止められたため、帰ってくるのを待っていた。
告白であることは誰の目にも明らかだったので、正直さっさと帰りたい気持ちは山々だったが、そうすれば侑は盛大に拗ねる。それは極めて面倒だった。
そうして手持ちぶさたで待っていること数分で侑は戻ってきた。
当然、断ったらしい。
「なんて断ったの?」
「断った前提かい」
角名が大して興味もなさそうに聞くと、侑はツッコミを入れつつ「普通や普通」と答えた。
会話はそこで終了し、ようやく校門を出て歩き始めた。
「治も昨日告白されとったもんなあ」
赤木が思い出したように言うと、銀島は「ホンマ二人揃ってようモテますね」と繰り返す。
双子への告白が二日続いたため、銀島もさすがに感心していたようだったが、もはや慣れたため他のメンバーは感慨もない。何より、性格ブスな侑となにも考えていない治の素を知っているため、余計に微妙な気持ちになるのだ。
「顔の良さで言うたら伊吹かてモテるはずやんな」
すると、アランがふとそう話を振ってきた。こちらに来るとは思わなかった伊吹は少し驚く。
「え…なんすかいきなり」
「いや、なんとなくやけどな。でも、俺としては双子より伊吹のがクールでええと思うてな」
「ちょっとそれどういうことやアラン君!」
「せやで、伊吹はクールに見せかけてめっちゃ可愛い系やねんから勘違いせんといて」
「何言ってんだ治おい」
単に比べられてキレる侑と、またずれたことを抜かす治。伊吹はいつものことなので気にせず適当にいなしたが、侑は食い下がる。
「こん中で一番の男前は俺や!伊吹やって、稲高バレー部抱かれたい男ランキング1位は俺やんな!?」
「初めて聞いたランキングなところ恐縮だけどな、双子はない」
「「待ってなんで!?」」
伊吹の発言に、治も声を揃えて憤慨した。驚いているのは双子だけではない。顔の良さもさることながら、双子の義理の弟として二人にドロドロに愛されているのを日々見ているメンバーからすると意外だったようだ。
「侑も治も、『男やし妊娠せぇへんのやからゴムいらんやろ』っつって中出ししてきそう」
「うお、伊吹て下ネタ言うんやなぁ」
アランは別のところに驚いたものの、他は「あー…」と納得したような声を出した。双子がそう言うであろうところが容易に想像できたのだ。
そしてそれは当の本人たちもそうだったようだ。
「そう言われるとなぁ、正味その通りっちゅうか」
「ぶっちゃけナマでええやんな?」
侑と治が顔を見合わせて言っているのを見て、周りはドン引きして見ていた。
すると侑は、後ろを歩く伊吹を振り返った。
「せやったら、伊吹はこん中やったら誰に抱かれてもええて思う?」
「なんでこの中だよ…まあ、レギュラーの中だったら、赤木さんか銀島さん」
「「えっ」」
双子のように声を揃えて驚く赤木と銀島の横で、アランと角名は少しムッとした。
「なんで俺じゃあかんの」
「双子はともかく俺も省かれんの意味分かんない」
「アランさんはけっこう不器用だし立派な息子さんいるから痛そう。角名さんはハメ撮りしてきそう」
ブハッと噴き出した双子と、笑いを堪える赤木、生々しい話に少し顔を赤くする銀島。
アランも顔を赤らめつつ、「ホンマよう見とるなぁ…」と変な感心の仕方をした。
角名はしばらく考えたあと、「するわ、ハメ撮り」と否定どころか肯定した。
「俺と銀がOKな理由はなんなん?」
面白おかしい話題になったからか、赤木がそう聞いてきた。恐らく他のメンバーは理由を察しているだろうが、伊吹はきちんと答えることにした。
「赤木さんも銀島さんも性格男前だし、見た目も男前だし、でも気ぃ遣ってくれるし誠実なんで、なんつか、安心して任せられるかなって」
「へぇ〜良かったやんぎ〜ん」
侑は照れる銀島をおちょくる。赤木はからっと笑って「サンキュー!」と返してくれた。それとは対照的な銀島の反応を見て、伊吹も侑にノることにした。
「いつでもOKっすよ、銀島さん」
「な、なに言うてんねん」
「あ…すんません、迷惑ですよね、俺にそんなん言われても……」
シュンとしたような声と表情を作れば、銀島は一瞬ぎょっとしたあと、「あーもー」と言っておもむろに伊吹を抱き締めた。
10センチ高い筋肉質な体に正面から抱き締められ、伊吹は驚いて銀髪を見上げる。
「…冗談やて分かってんねんけどなぁ。俺、大事な子ぉには笑っとって欲しいタイプやねん。冗談でも、俺のせいで傷ついた、みたいな表情せんといて……」
冗談だと分かっていながらも、銀島はそう伝えてくれた。抱き締められてそんなことを言われては、さすがに同性でもドキドキとしてしまう。
「え、と、あの、すんません…」
「こらアカンわ、勝たれへん」
「天然でコレやもんなぁ」
さすがに照れる伊吹に、双子もこれは仕方ないとばかりに頷く。
銀島に離してもらい、再び止めていた足を動かして一同は歩き始めた。
「ちなみに大耳さんと北さんは?」
そこへさらに侑は、残って監督と打ち合わせをしてここにはいない二人を挙げる。自分たち以外にも仲間がいると分かり途端に機嫌を直していた侑だが、銀島の圧倒的な男前ぶりに吹っ切れたらしい。
「大耳さんは聖域だからダメ、おそれ多くて俺が勃たねぇ」
「わかる」
角名が頷き、アランは首を傾げ、侑はケラケラと笑う。
「北さんは、セックスしてても『ちゃんとすんねん』発動して、汚すなとかあれこれ言いそう」
「さすがに言わへんで」
そうして答えたところに投げ掛けられた冷静な声。ギクリと全員の足が止まり、ブリキのおもちゃのようにゆっくり振り返る。
そこには、呆れた顔の大耳といつも通りの北がいた。
会話を聞かれたことに侑が「ヒュッ」と息を飲む。
「い、いつの間に…おったんです……?」
「今や。立ち止まって銀島が伊吹を抱き締めとるから何事やと思った」
「へ、へェ〜」
伊吹ですら冷や汗を流していると、北は全員のそうした様子を察したのか薄く笑う。
「別に、大声でもないんやし、男子高校生やったら普通の会話なんとちゃうん。さすがにそこまで目くじら立てんわ」
特にお咎めはなかったようで、全員がホッと息をつく。意外にも、北は「男子高校生ならそういうもん」というレベルまでいちいち言うつもりはないらしい。うるさいPTAでも生活指導でもない、ある意味当然だ。
しかし、北はすっと伊吹のそばに寄ってきた。突然距離を詰められ驚いていると、北はふっと小さく笑う。
「さっきの話やけどな。気持ちええことはちゃあんと気持ちよくならへんと、それが『ちゃんとする』いうことやろ?」
「っ、!」
耳元で言われてビクリとすると、北は楽しげに笑って伊吹たちを追い抜かしていった。
完全に″雄″の声で言われたことに、伊吹は激しく音を立てる心臓を落ち着かせようと胸元に手を当てる。
呆然とする侑たちが遅れて騒ぎ始める頃には、落ち着かない心臓に諦めて、詰めていた息を吐き出した。