SS小話集−バレンタイン(戸美)


戸美2年マネ男主
大将、沼井×主


バレンタインというのは確かに学校生活においては華のイベントのひとつだろう。
しかし結局のところ、3年生にとっては私大の一般入試シーズンであるため自由登校であり、「先輩にチョコを」などというようなことは難しいのが実情だ。

そして実際にそういう状況になっている伊吹は、自分がそんな殊勝なことを考えていること自体に内心で自嘲している。
見た目も言動も不良である上に、チョコを渡したいなどと思ってしまった相手が同じ男で、先輩で、さらに見た目が厳つく不良っぽい相手なのだから。

そんな2月13日の放課後、部活へ行くため部室へ向かっていると、廊下で後ろから声をかけられた。「朝倉君!」と呼ばれて振り返ると、髪を揺らして駆け寄ってくる女子と、それを見てデレデレとしている元主将。


「大将さん、山架さん、どうしたんすか」

「ちょっと聞きたいことがあって!」


答えたのは山架美華、戸美学園バレー部の元主将である大将優の彼女だ。3年にはミカさんと呼ばれているが、伊吹はそんな呼び方をするキャラではないため、普通に名字で呼んでいた。
あまり話したことがない相手だが、どうしたのだろうと首をかしげていると、近くまで来た山架は声を少し潜めた。


「明日バレンタインでしょ?朝倉君、渡すの?」

「部員にっすか?」

「おいおい、この期に及んでまーだそんなこと言ってンの?」


ニヤニヤとする大将に、伊吹はまさか、と顔を引きつらせる。山架はにっこりとして、しかし有無を言わない圧を醸し出す。


「沼井君に、当然、渡すよね?」

「…や、渡す予定はねえっすけど……」

「ほら言ったとおりだろミカちゃん」

大将はやれやれとばかりに首を振る。山架もため息をついた。


「去年は私が部員全員分作ったから渡さなかったよね?つまりこれが最後のチャンスだよね?」

「最後も何も…つか、二人とも、この話の流れはバレてます…?」

「むしろな、伊吹の沼への気持ちに気づいてないの、部員じゃ沼と潜だけだぞ」

「マジか…」


うすうすそうかもしれないとは思っていたが、やはり部員の大半には伊吹の気持ちはバレていたらしい。正直、うまく隠せていた自信もないためそれには驚きはない。空気を察することに長けた部員たちなので、放っておいてくれたのだろう。
しかしついに、お節介な元主将とその彼女が動き出した。


「絶対大丈夫だから!ね!だから沼井君に渡そうよ!」

「あの人絶対引きますよ」

「ん〜めんどくせ〜、ミカちゃんが渡せって言ってんだから渡すんだよ」


ついに大将はキレ気味に言ってきた。しかしマネージャーとしていつも一緒にいた伊吹だ、大将に言われても従うつもりはない。そう思っていたが、その横の彼氏よりパワーが強い彼女にはさすがに勝てない。


「もう決定事項だから!渡さなかったら、仲がいい後輩女子にあることないこと吹聴するからね!」

「…ッ、でも俺、普通の料理はできっけど甘いモンは……」

「じゃあ私と作ろ!いいね!」

「ちょっと待ってミカちゃん、それなら俺も…」

「はあ?女子がバレンタインのお菓子作ってるところ男子禁制だから!」

「え…俺は……」

「そうだよ、伊吹はさ…」

「なんか文句ある!?」

「「Sir, No Sir…」」


***


こうしてなぜか一緒に作ることになった伊吹は、大将に「絶対変なことするなよ」というメッセージアプリRINEが入っていたのに対して「山架さんに振られて俺に変なことしようとしてきたくせによく言いますね」と返してやるなどしつつ、甘さ控えめのクッキーを作り終えていた。
普通にわかりやすく教えてもらい、普通に会話も弾み、さすが、推薦入試で上位大学に合格して暇を持て余していただけあると感じた。
ちなみに、大将からは「なんでもするからそのことはミカちゃんに言わないで」と返信が来ていた。「それなら部活もっと見に来てください」と返信したところ、「やっぱそういう可愛いところあるから手ぇ出そうとしてもしょうがないじゃんね」と抜かしていた。
そのときちょうど、山架には振ったあとに大将が伊吹にちょっかいをかけたのではないかと名推理をされていたこともあって言ってやろうかと思ったが、卒業前に波を荒立てることもあるまいと答えは濁してやった。決して、この先もこのネタで脅そうとは思っていない。

翌日、バレンタインを迎え、大将と山架は揃って登校してきた。部員用のチョコを今年も作った山架と一緒に、大将も後輩の指導のために来てくれたようだ。既読無視したこともあり、大将には山架のいないところへ呼び出され、廊下の隅で全力で謝られた。


「言ってねっすよ」

「神!ありがとな!!」

「…あと、これ」


伊吹は昨日作ったクッキーを大将に渡した。ラッピングはただの透明な袋で、かわいげのかけらもない。それを見て大将は目を見張る。


「え、俺に?」

「彼女さんと二人になってすんませんってのと、あと、まぁ、お礼、っす。俺は、大将さんが率いる戸美バレー部が好きでした。主将としてそういう部活を作ってくれて、ありがとうございましたってのを、その、ついでに形にしたっつーか…」

「あー……うん、ありがとな。やべ、ちょっと泣きそ」


小さく笑うと、大将はクッキーを鞄にしまう。気恥ずかしくて頬をかくと、大将は「やっぱ可愛いよ、伊吹。つい傷心のあまり迫ってもしょうがなくね?」と言うものだから、伊吹は無言で肩パンを食らわせた。
ちょうどクラスで勉強していたメンバーに渡し終えた山架が戻ってきて、伊吹は「山架さーん」と声をかけたので大将は痛みにうめきながら慌てる。懲りない男だと思いつつ、伊吹は同じラッピングのクッキーを手渡した。


「えっ、私の?」

「昨日ありがとうございました。あと、今までも。バレーのこと、部活のこと、理解してくれてありがとうございます。そういうの、やっぱ嬉しいから」

「ありがと…うわ、やばい、沼井君に朝倉君はもったいなくない?てか普通に好き…」

「ちょっとミカちゃん!?…と言いたいところだけど同意だわ。3人で付き合う?」

「や、何言ってんすか。俺が好きなの沼井さんなんで」

「……え、マジで」




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