SS小話集−カイロ要員(青城)
青城2年マネ男主
金田一×主
他の地方の人が思うほど雪は降らない仙台だが、東北である以上、普通に極寒な冬を経験する。
仙台に限らず東北や北海道の人々が東京でまったく寒そうにしていないのは、やはり寒さの底が違うからなのだろう。
しかし伊吹は、そんな宮城県で生まれ育ったにも関わらず寒さに弱く、冬はたまによそ者扱いされる。マネージャーとはいえ運動部でそこそこ動いているのに細い体であることが原因の1つ、というかほぼそれなのは分かっているが、指摘されるとキレる。
この冬、それによってすでに及川は3回ほど伊吹から殴る蹴るの暴行を受けていた。
とはいえここまで来ると伊吹も開き直る。
ある日曜の部活が終わる間際、先にエアコンをつけて温めておこうと部室に戻った伊吹が寒さに震えていると、そこに金田一が入ってきた。
「あれ、金田一?どうした?」
「自主練前にタオル替えておこうと思って…伊吹さんはエアコンですか?」
「おう、体冷やさねえように」
「だからいつも暖かかったんスね!いつもあざす」
「まぁマネージャーだしな」
律儀な金田一はこんなことでも礼を言ってくれる。感謝されたくてやっていることではないが、言葉は嬉しいものだ。
しかし、それにしても今日は冷える。身震いするほど寒い部室から出ようとすると、ロッカーの中を漁る金田一の大きな背中が目に入った。
もう190センチに達したのではないだろうか、長身の体は同じ学年の他の男子より逞しい。
明るく可愛げのある性格も相まって、やたら金田一が温かそうに見えた伊吹は、おもむろにその背中に抱き着いてみた。肩甲骨の間に顔を押し付けるようにして抱き着くと、金田一は驚いてその肩を跳ねさせた。
「えっ、伊吹さん!?」
「あー、やっぱお前あったけーな」
「…あぁ、寒かったんスか」
伊吹の意図に気付いた金田一は小さく笑うと、着ていたジャージの前を開ける。
「前、来ます?」
「……マジ?」
「はい、どーぞ」
そう言って金田一はいったんこちらを向く。ファスナーを開けたジャージの内側には水色のシャツが見えていた。
伊吹は恐る恐るその胴に抱き着く。目線の高さと肩のラインが同じくらいで、この後輩との身長差はこんなにもなるのだと実感した。
金田一はファスナーを閉めることこそないが、広げたジャージの内側に伊吹を閉じ込めるようにして抱き締めてきた。完全に温もりに包まれて、その心地よさに目を閉じて息をつく。
「中学んときもこうやってましたよね」
「あ…そういやそうだったな」
北一のときも、寒さから金田一で暖を取っていた。岩泉や影山にもよく抱き着かせてもらっていたが、及川と国見はあまり体温が高くないので役不足だった。ちなみにそう伝えて盛大に拗ねられた覚えもある。
「お前ほんと優しいよな。男の先輩にこんなんされて嫌じゃね?」
「そりゃ他の男だったら嫌っスけど、伊吹さんは特別なんで」
「特別?」
「はい、特別です」
ゆっくりと穏やかな喋り方は、金田一と2人きりのときに金田一がするものだ。グループでいると一緒に騒げるものの、個人だと案外静かなタイプなのだろう。
「……伊吹さんて、なんでもできるじゃないですか。だから寒さに弱いの見ると、伊吹さんも人間なんだなー、みたいな」
「人間だっつの」
「分かってますよ。でも、なんでもできる伊吹さんのこと甘やかしたり、頼ってもらったりってなかなかできないんで、嬉しいです」
「そっ、か……」
ストレートな言葉の数々に思わず伊吹は照れる。顔を見られていたら赤くなっているがバレていた。見られないようその肩口に顔を寄せると、甘い清潔な匂いがした。
伊吹は慌てて話題を変える。
「にしても、あれだな、金田一はいい匂いするな。汗かいてんのに」
「……伊吹さん、」
しかし金田一は、少し呆れたような声音におかしそうなトーンも含めて楽しげに耳元に口を寄せる。
「いい匂いだって思える相手とは相性がいいらしいっスよ。俺も伊吹さんのこといい匂いだと思ってるんで、俺ら相性いいですね?」
「へ……」
「コミュ力なくて自爆する伊吹さん、マジかわいいです」
どうやら伊吹は自ら藪を突いてしまったらしい。出て来た蛇のように伊吹を抱き締める腕の力が強くなるのを感じながら、伊吹は呆然とそう思った。