目が死んどるメガアイドル2−2
不自然なほど真っ白な部屋は、まるで無菌室か何かのような殺風景なもので、その中央に鎮座する革張りのソファーが異質だった。
そこに座って膝を立てる男は、ソファーに紛れるような黒い革製の服を身につけていて、髪の毛もあえて黒く染めたかのような黒をしていた。白い部屋に対するコントラストとしては鮮烈すぎる。
ソファーの足下には、金髪と銀髪で分け目を逆にした男が二人、まるで主人に控える飼い犬のように床に座っていた。文字通りの飼い犬である二人は精悍な顔立ちの双子である。
「カイン、アベル、計画は順調?」
「はい、ノド様」
「すべて計画通りです」
「そうか、えらいえらい」
ノドと呼ばれたソファーの男は、床に座る金髪のカインと銀髪のアベルをそれぞれ撫でた。
「そういえば、内通者として紛れ込んでいたネズミを捕まえてあります。いかがしますか」
「そうだなぁ、ろくな情報があるとは思えないけど、まぁ拷問したい気分だし行くよ。どこ?」
「拷問部屋にすでに」
「さすがアベル、仕事が早いね」
銀髪のアベルが報告したことに、ノドはうっそりと微笑んで褒めた。それにアベルは恍惚とする。カインは妬ましそうに見ていたが、ノドの視線を受けるとすぐに表情を戻した。
「カイン、」
「はい!」
「…俺の気が済んだら片付けといて」
「っ、はい」
ただの汚れ役、それも下っ端にやらせればいいことだ。しかしカインは喜んで引き受けた、振りをした。本当は嫌で、アベルのように活躍したいと願っていた。
時は流れ、警察や警察に味方する謎の3人組が計画に支障を来すようになった。そんな中、3人の青年たちに次第にアベルは興味を持つようになり、そしてその3人の説得によって組織を裏切ろうとする。
しかしそれに気づいていたカインは、ノドにそれを報告した。ノドの返答は実にシンプルだった。「殺せ」、それだけであったが、カインは手も声も震わせながら、アベルに手をかけた。
白い部屋に革のソファー、そこに座るノドの足下に膝をつくカイン。ガタガタと震え、片割れを亡くした、いや、自ら殺したその衝撃がむしばんでいた。
「かわいそうなカイン、ごめんね、つらいことをさせたね」
「…ッ、ノド様、ノド様ぁ…!」
「うん、つらいよね、でも大丈夫だよ」
ノドは床に降りて、カインをそっと膝立ちで抱き締める。ノドに縋り付くカインには見えていなかったが、声だけは慈愛に満ちたノドのその表情は、まるで絶頂を迎えているかのように恍惚と快感に満ちていた。
***
「あのときの伊吹の顔マジでやばかった」
「やばいってなんだおい」
川西が恐ろしそうに言うため、伊吹は机の下で川西の長い足を蹴る。痛そうにしつつ、川西は「いやほんとに」と言って箸に掴んだままのしめ鯖を取り皿に戻した。
そんな川西に、向かいの赤葦も深く頷いた。
「アイドル的にどうなんだろうとか、伊吹そもそも笑えたんだとか、なんで声と表情あんな分けられんだろとか、いろいろ思った」
「表情と声一致しねぇのは川西もだろ」
「俺は無表情で声だけトーン変えてんの。伊吹のはどっちも違う感情じゃん」
やはり俳優が本業だけあって、川西はすぐに違いを指摘した。
あのシーンで抜かれた伊吹の恍惚とした表情は「鳥肌が立った」「失禁するかと思った」「原作よりやばい」などの声が上がった。かなり佳境でのシーンだったため、その頃にはすでにアイドルとしてのファンだけでなく、演技力に惹かれたファンも多かったと武田は言う。
するとそこへ、個室の扉が思い切り開かれた。スパーンと音を立てて空いた扉から入ってきたのは、金髪と銀髪の双子。
「呼ばれて飛び出て!」
「出てこいやぁ」
「いや出てきてんのこっちやろ!もうええわ、」
「「どうも、ありがとうございました〜」」
すっと扉を閉めて姿を消した二人。気にせず、伊吹たちは「おかわりする?」などとメニュー表を出したが、すぐにまた扉が開いた。
「いやいやいや」
「待て待て待て」
「カインとアベルが漫才やってら」
「ノド様〜」
スルーされたことにツッコミを入れながら入ってきたのは、カイン役だった宮侑、アベル役だった宮治だ。双子で2Foxという伊吹や赤葦と同じ事務所のアイドルをやっている。珍しい双子アイドルとして大人気であり、カインとアベルへのオファーもやはり原作と同じ色合いで分けて活動しているからだった。
伊吹を役名で呼んで個室に入った二人は、川西を強引にどかして伊吹の両サイドに陣取った。川西は無表情で泣き真似を声だけでしながら赤葦の隣に移る。
先ほど出したメニュー表で適当に注文をしてから扉は閉められ、5人が揃うことになった。
「もぉ〜、最初から呼んでやあ〜」
「インスト見て薄情かってツッコんだわ」
右側に座った侑は伊吹の梅酒ロックを勝手に飲み、左側に座った治は餃子をパクパク食べ始めた。
赤葦がインストでこのメンバーでの飲み会であることを投稿し、それを見た侑と治が飛び込んできたのだ。特に驚きがないのは、こういう乱入が初めてではないからだ。撮影期間中はよくあった。
ひとつのタイトルにここまで多くの同じ事務所のアイドルが揃うことはそうなく、当初はそれが騒がれたものだが、アイドル勢は実力で黙らせた形だ。事実、ビジュアル先行の双子と伊吹は見事に演技力で新たなファンと仕事を獲得した。
「なんの話しとったん?」
「侑が治殺して、伊吹が侑を慰めつつやばい笑みを浮かべてたシーンの話」
侑の質問に赤葦が答えると、侑はケラケラ笑って「ホンマあれはやばい笑みやった」と同意した。治はすでに殺されたあとだったが、オンエアで見てドン引きしたという。今も頷いてから、侑よりは静かな声で続けた。
「あのあとに伊吹がホンマモンのサイコパスやって分かって余計やばいって分かるんよな」
「…つか本名で話すとマジで俺がサイコパスみてぇになんだろが」
そう言って両サイドをどつくと、侑は自分は言っていないと騒ぐが黙殺する。
そこに双子の分のビールがやってきて、改めて5人は乾杯をした。