連載: rack up, good luck !−4
「…ある程度の力で、一番弱い小指付近を狙えば、たとえ正面にブロックがあっても、身長差があっても打ちぬける。突き指の恐怖を持って伊吹のブロックをするのはメンタル削られるぞ」
澤村はなぜか褒めるように伊吹の髪を撫でて苦笑する。この大きな手の平と逞しい腕は、何度も練習で伊吹のスパイクをレシーブしてきた。こんな言い方をしておきながら、この先輩から得点できたこともあまりなかったのだ。恐らくそれは伊吹の選手としての限界で、たとえ白鳥沢から来ていた推薦を使ったとしても、コートに立つことは叶わなかっただろう。
とは言っても、ブロックやレセプションを含めて、多くの烏野部員より伊吹のスパイクの方が強いのは事実だ。青城レギュラーの三枚ブロックを抜いた伊吹を見て、澤村も改めて思ったようだ。
「…いくら日向と影山のコンビが優秀でも、正直、周りを固めるのが俺たちじゃあまだ弱い。…悔しいけどな」
伊吹の頭から手を離した澤村は、烏野に圧倒的に足りない力を痛感している。
そこへ、校門から「ちゃんとわかってるね〜」などという軽い声が飛んできた。格好つけて校門の柱に寄りかかるのは及川だ。
「今日は最初の数点しか戦えなかったけど、次は最初から全開でやろうね」
そう、今日、及川は最後の数分しかコートにいなかった。及川を欠いた状態の青城に、やっとの思いで勝っただけなのだ。特に、及川の強烈なサーブは早くレセプションで切れなければどうにもならない。
「君らの攻撃は確かにすごかったけど、すべての始まりのレシーブがぐずぐずじゃあすぐ限界が来るんじゃない?」
すべて及川の言う通りだ。それに、サーブが強烈なのは及川だけではない。全国に出る前だけでも、及川や白鳥沢のエース、牛島若利などがいる。
「インハイ予選はもうすぐだ。ちゃんと生き残ってよ?俺はこの…クソ可愛い後輩を、公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからさ」
かつて、中学入学早々から頭角を現してきていた影山に、及川は追い詰められていた。絶対に勝てない牛島の存在や、セッターとしての責任感、様々なものが、及川を自分でスランプに追い込ませる要因となっていた。
それ以来、及川は影山を目の敵にするところがある。だいぶ丸くなったとえ、まだ健在なようだ。
「レシーブなら特訓する!」
「レシーブは一朝一夕で上達するモンじゃないよ」
そうやって圧力をかけてくる及川に対して、日向は吠えた。しかし嫌がる月島の腕を掴んで言った言葉に対し、及川は冷めたようにそう返すだけだった。むかつくが、それも事実だ。ただ、伊吹もむかつくものはむかつくので、せっかく仲直りしたこともあり、ここらでひとこと言っておくことにした。
「…心配いらねっすよ、及川さん」
「え…」
珍しくこういう場面で口を開いた伊吹に、烏野の部員たちから驚いたような目を向けられる。それを横目に、伊吹はニヤリとしてやる。
「俺が地獄見せてやるんで」
「うわ…ごめん、及川さんいらんこと言ったね…うん、まぁ頑張って!」
及川はびくりとすると、そそくさとそういって校舎の方へ帰っていった。分からなさそうにする日向たちに、影山ですら顔を青くして説明する。
「あの人がバレーのことで笑ったら、やべーことになる。マジな地獄見るぞ…」
「バレーバカの影山が言うとは…」
1年生たちは影山の深刻そうな顔に慄く。田中たち2年生も、伊吹のニヤリとした顔に不気味なものを感じ取ったらしかった。すると、澤村まで「ふふっ…」と不穏な笑みを浮かべた。いよいよホラーの深まる様子に田中は恐ろし気にするが、澤村は思いのほか普通に切り出す。
「確かに時間はない…けど、そろそろ戻ってくるころなんだ。烏野の、守護神」