連載: cuddle eagle struggle−3
「北一とか強豪じゃん!てか見たことある気がすると思ったら、WSの朝倉伊吹か」
「ここの中等部に全敗してっけどな」
「いやぁ、それでも有名だったじゃん。つか、それでなんでマネージャー?なんなら、白鳥沢から推薦来てたんじゃねーの」
「スポ推は蹴った。うちシングルだから、選手やる余裕ねぇし。学費も生活費もかかんねぇから、ここの学業推薦の方で受けて受かったわけ」
今時そう珍しくはない話だが、推薦が来るほどスポーツができて、白鳥沢に来れたような経済階級の者からすれば珍しいかもしれない。少なくとも川西は驚いており、途端に気まずそうに「あー…ごめん」と謝って来た。
「なんで謝んの、って言いてぇけど、ま、そうなるよな」
「…偉いな、それで勉強して推薦自分で取るとかさ」
「そ?まぁ、サボって勉強教えては通用しねぇからな」
ニヤリとして言ってやれば、川西は呻いて顔を逸らす。やはりそちらの方は自信がなかったようだ。スポーツ推薦などそんなものだし、学園から要求される単位も学業に重きは置いていないらしい。
靴箱にいたり、上履からローファーに履き替える。川西はすでにシューズ登校だった。寮からの僅かな距離だ、それも当然だろう。
「てか、俺に話しかけたのテスト目的だったりしてな」
「なっ、そういうわけじゃねぇよ!ただ、特待生になれるヤツってどんなヤツだろって気になって」
その返答もフォローにはなっていない。恐らく川西は正直に答えたのだろう。いずれにしてもあまり良い言葉ではないことに気づき、川西はさらに勝手に焦る。
「いや、そういうんでもなくて、なんつか、その、」
「…ふっ、なに焦ってんの」
校舎から出て春の陽気に包まれる。柔らかい陽光は眠気を誘うようだ。川西はくすくすと笑う伊吹を見て少し呆然としていた。
「…なに?」
「えっ、いや!でもあれだな、特待生のわりに伊吹ってヤンキーっぽいよな」
顔を少し赤くして、川西は話題を逸らす。学業特待生などがり勉的なイメージになって当然だ、確かに大方のイメージからは外れていることだろう。寮に向かって歩く2人は、春の陽気に浮かされたように歩調が緩かった。
関東や関西は入学式シーズンには桜が散り始めているが、仙台は比較的ちょうどくらい咲くことが多い。太平洋側なので温暖ではあるが、やはり東北、東京とはシーズンがずれるものだ。
満開の桜の下を歩くのは、やはり季節を感じられて気分がいい。
「よく言われる。別に真面目なわけではねぇしな」
「俺よりはずっと真面目な気がするけどな」
そうして少し話すだけで、すぐに寮に着いた。ちらほらとジャージ姿の生徒もいることから、一気にここから新入生を迎えた新鮮さがなくなる。すでに学校に慣れた者ばかりだからだろう。
「そうだ、俺はこのあとバレー部の練習行くけど、伊吹も来るか?推薦は来てたんだろ?マネージャーとして入れてもらえるかも」
「あぁ…そうすっかな、会いたいヤツもいるし」
「先輩とか?」
「んー、まぁ、先輩っちゃあ先輩」
煮え切らない返事に川西は首を傾げるが、追求せずに寮に入る。
寮は学年ごとに分かれているが、学年が上がっても移動するわけではないため、毎年1年生が入るフロアは異なる。今年の伊吹の代は2階だった。
「そういや、特待生は1人部屋なんだっけ」
「そ。角部屋に1人」
「いーなー、遊びに行っていい?」
「気分による」
「まぁ、そうだよな。じゃあ、このあと11時から1年も混ざるから、一緒に行こうぜ」
「ん」
川西と階段で分かれ、端に向かう。思えば、やたら会話弾んだように思う。普段あんなに会話が途切れないことはあまりない。川西の空気感というか、雰囲気や口調、話の進め方が伊吹にあっていたのだろう。サバサバとした川西は、必要以上に距離を詰めるわけでもなく、何かを気負っているわけでもない。伊吹のきつい喋り方も、恐らく気にしないのだろう。そんなところが、話しやすく感じる理由なのだと思う。