連載: cuddle eagle struggle−白鳥沢のレギュラー
「…やってやろうじゃねぇか」
伊吹は小さく呟いて、隅で準備運動をする。本格的な練習ではないため、授業の体育レベルでいいだろう。寮からここまで、少し早めに歩いてきたこともある。とはいえ柔軟含めそれなりに体を温めてから、満を持してカートのボールを掴んでレギュラーのところへ向かう。
見計らった斎藤から「レギュラーはレシーブ練!」という指示が出たのを聞いて、若利を含めた背の高い選手たちがさっとコートに並んだ。ネット越しに相対すると、2年生ばかりながら迫力があった。やはり高校生は体格から違う。川西も体格はかなり良かったが、先輩たちは厚みがある。
「マネージャーになった朝倉伊吹です、おなしゃす」
「しゃーす!」
体育会系らしい威勢の良い声が返ってくる。若利が気に掛けていたからか、わくわくしたようにこちらを見てきていた。
ボールを何度か床にバウンドさせて感触を確かめる。やはり良いものを使っていた。他の選手たちも練習を続けているが、ちらほらとこちらを見てきている。1年の推薦組はもちろんで、鷲匠もそれを注意せずこちらに意識を向けていた。注目されることは不愉快だが、こういう品定めは、むしろ嫌いではなかった。そうでなければ、強豪でエースを張ることなどできない。
「いきます」
「サッ来オオオオオい!!」
最初にレシーブの構えを取ったのは、恐らくLiだ。ツーブロで狩り上げた上に後ろへ立たせた髪、そして男前な顔だち。どっしりとした構えは隙が無く、Liにしては大き目の170センチ代半ばの身長。
伊吹はボールを3回バウンドさせてから、シュッと空中に投げた。やるなら最初から最後まで本気で、それは伊吹のモットーだった。最初から、ジャンプサーブだ。どうせセッターもいないのだ、ボールを打つにはサーブしかない。助走をつけて、床を蹴る。体をひねり、体幹すべてを使って腕を振り下ろした。
息を止めて手の平がボールを叩きつける。その直後、ボールは鈍い音を立てて弾かれ、Liのところへまっすぐ落ちる。ほとんどラグもなく、ボールはLiの腕に着弾して、バシッという乾いた音が響いた。
「ぐっ…!」
男前が呻き、ボールは勢いよく弾かれる。完全にアウトだ。
「あ、すいません。もう少し弱い方が良かったすか?」
「ほーぉ、さすが若利の幼馴染、マネージャーとは思えねぇ不敵さだな…!」
腕の痛みに顔を顰めつつもニヤリと笑ったLiは、サーブの威力に火が付いたようだ。並ぶレギュラー陣も意味深な笑みを浮かべ、他の選手たちは呆然とする。
170センチちょうどくらいの伊吹の身長、決して筋肉質には見えない体格、そうした様子からここまでのサーブが出るとは思っていなかったのだろう。だが、そんな驚きはレギュラーにはなく、面白いことになった、というワクワク感が増しただけのようだった。その豪胆さが、先輩でありレギュラーである彼らの一線を画す部分なのだろう。
「俺はLiの山形隼人だ!よろしくな!」
「あ、うす、おなしゃす」
「とりあえず2年5人で回すから、1人ずつどんどん入れ替わってくぞ」
「はい」
山形に流れを教えてもらい、次に背の高い赤い髪の選手がコートに立つ。にやにやとしてこちらを見る表情は食えない。
「俺はMBの天童覚、さとりんって呼んでくれていいヨ〜」
「お願いします、天童さん。じゃ、いきますね」
「ん〜生意気ィ〜」
そう言いつつ面白いだけのようで笑っている。だがブロッカーである以上、サーブを取ることは得意なはず。伊吹はボールを投げて再びジャンプサーブを決める。天童は正確にボールの軌道と回転を読んだようで、レシーブをきっちりと決める。しかしボールはこちらのコートへ戻ってきてしまい、本番ではチャンスボールだ。
「くっそ、Aパス決めて鼻明かしてやろーと思ったのにぃ」