連載: cuddle eagle struggle−幼馴染


その後、レシーブ練が終わると1年と2年の試合形式の練習が行われ、1年がボコボコにされ、合間に伊吹はドリンクの用意などに勤しんだ。別にプロを目指すわけでもない、エースからマネージャーに転向するのは悔しくないわけでもなかったが、部活として関わるには十分だった。斎藤も、伊吹には実践的なサポートを期待しているようで、ボール出しの他にもスパイク練や試合形式の練習でプレーをしながら支えるような役割を任された。
18時に部活が終わると、バラバラと帰る者と残って自主練に励む者に分かれる。そこは各自のペースがあるため、残らないことが悪いという空気ではなかったが、レギュラーは全員当然のように残っていた。
コーチや監督は、自分たちがいない時間の重要性を認識しているためすぐに下がる。1年生も、推薦組であるため残る者が多い。

伊吹も若利を初めてレギュラーの自主練に付き合い、いつの間にか時刻は19時を過ぎていた。体力に差がある1年の大半や、上級生たちも帰っており、体育館にはレギュラーと川西など数人の1年がいるのみ。
残っている1年はいつもこの時間までいるようで、2年たちにも顔を覚えられていた。推薦の形態が違うため、入学式まで顔を出すのを我慢していた伊吹は、初めての参加ながらレベルの高い練習風景にもっと早く来たかったとも思ってしまう。だが、選手になれない以上、そして特待生である以上、生活リズムをつくって勉強する時間を確保する練習も必要だった。


「よし、そろそろ帰るぞ〜」


体育館が静かになりつつある頃を見計らい、大平がパン、と手を叩く。それを合図に残っていたメンバーも片付けに入った。全員スポーツ推薦の生徒であるため、このあと寮に帰ったら夕飯を食べて入浴して寝るのだろう。予習復習に追われるのは、今後伊吹だけとなりそうだ。
1年も部室を使っていいらしく、若利たちについて片付け後に更衣室へ向かう。小奇麗な部屋はまるでスポーツジムのようで、ロッカーがずらりと並び、中央にベンチが置かれていた。各自にきちんとロッカーが宛がわれ、足りなくなることはないのだという。それだけ多くのロッカーがあった。

ただ、学年でスペースを分けるようなことはしていないようで、空いたところに適当に宛がうことが続いていたため、学年がごったになっていた。伊吹が指定されたロッカーも、瀬見の隣だ。

シャツを抜いて上裸になると、おもむろに「うお、」と瀬見が声を上げる。


「やっぱ細いなぁ!ちゃんと食ってんのか?」

「食っ…て、ます」

「なんだその間」


正直あまり食べる方ではない自覚はある。運動していないヤツよりは食べていると思うが、運動しているヤツの中では圧倒的に小食と言える。
それでも、腹筋だって割れているし握力だって平均値より高い。空手をやっていたのだ、体幹だってかなりしっかりしていた。何度でも回転するタイプの蹴り技、上段後ろ回しなら連続40回は固い。
しかし隣の瀬見は2年ながらがっしりとしていたし、腕や肩幅はまったく伊吹と異なる。山形や大平もそうで、若利は言わずもがな。天童は彼らよりは細いが、伊吹とはまったく違った。川西もそうだ。ちょっとそれにむかついた。


「もっと食べた方がいい」

「ひっ、」


そこへ、若利が腰をいきなり掴んできた。直に熱い手の平に掴まれて、ぞわぞわとしたものが背筋を駆け上がる。


「若利君セクハラ〜」

「いきなり抱き締めてたしな」


天童が冷やかし、その距離感に山形も笑う。そうだ、今日は最初にとんでもない邂逅を全員に見せつけてしまったのだ。今更ながら恥ずかしさが沸き上がる。


「なんで加減できねぇんだよお前…!」

「久しぶりに会えたんだから仕方ないだろう」

「開き直んな」


悪びれない若利は本当に悪いと思っていない。そのマイペースな唯我独尊は、その憎めない天然ぶりのせいか、どうにも周りに許される節がある。




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