連載: cuddle eagle struggle−2


「つか幼馴染つってたけどよ、一個差なんだよな」


ふと、若利にだけため口であることに気づいて瀬見がしみじみと言った。先輩になったばかりで気づくのが遅れたらしい。確かに、伊吹は学年で言えば後輩なのだ。


「付き合いが長いからな。家も隣で、兄弟のように育てられた。まぁ、俺が弟扱いだったが」


若利はようやく腰から手を離すと、自身もシャツを抜いてタオルで体を拭く。そうして言った言葉に、全員噴き出した。1年は笑っていいのか分からず堪えているが、天童は「あっひゃっひゃ」と大笑いをしている。


「若利君の方が弟て!どんだけ子供っぽかったの!」

「あー…まぁ、俺が勉強教えたりしてました」

「ぶはっ、年下に教わるって!」


山形と瀬見も耐え切れず爆笑し、さすがに若利もむっとした。しかし言い返せず、それが更に笑いを助長する。

そう、昔から若利と伊吹は一緒にいたが、牛島家からは「伊吹君の方がよっぽどお兄さんねぇ」と言われていた。小学生の頃はまだ仙台市内に出てきて空手教室を開いておらず、牛島家の隣で暮らしていたのだ。若利の家は地元では名士であり、由緒正しい家柄だったため婿養子を取っていた。それも、日本代表のバレー選手だ。
その息子として生まれた若利は、幼いながらに今とそっくりで、その複雑な家の環境もあってあまり友達作りが得意でなかった。


「…伊吹は、いつも自分の友達ではなく俺とバレーをしてくれた。俺の家庭は少し複雑で、友達も少なかったから、伊吹はそばにいてくれたんだろう。ゲームだって我慢していた」

「や、ゲームは普通に買えなかったってのもある」

「それに、勉強だって俺に教えられるように常に上の学年のものをやっていた」

「そのおかげで特待生になれたけどな」

「伊吹がそばにいてくれたから、俺は1人ではなかった。だから、俺にとっては大切なんだ」


いつの間にか笑っていた声も収まり、若利の言葉と、それを誤魔化すように一言被せる伊吹にどこか生暖かい目を向けられた。若利の家もその後離婚していて、父親は海外にいる。若利が白鳥沢の中等部に入って完全に生活リズムが合わなくなり、伊吹も仙台市内に引っ越したことで、中学の間は年末年始や長期休暇でしか会わなくなっていた。
若利はこの通りの天然で、昔から人をあまり寄せ付けないタイプだったから、伊吹はいつもそばにいた。昔は社交的だった伊吹は、若利とばかり過ごすことで離れていく友人もいたが、それでも若利と一緒にいる方が楽しかった。


「別に、優しさとかで若利のそばにいたんじゃねぇ。俺が、お前といるのが楽しくて一緒にいたんだ。あんま、感謝とか、そういうこと言わなくていい」

「…分かった。でも俺は、またこうして伊吹と一緒になれて嬉しい」


先ほどからダイレクトな言葉の数々に、伊吹は恥ずかしさでどうにかなりそうだった。照れ隠しの言葉すら、大人びたレギュラー陣には筒抜けのようで、それも恥ずかしい。


「〜〜〜、鍵!返すんで!」


体育館と更衣室の鍵を返す仕事をマネージャーとして仰せつかっているため、伊吹は早く着替えろと圧をかける。へーいという先輩たちの気の抜けた返事を聞きながら、伊吹は乱暴に着替えのシャツを羽織った。



マネージャーとして体育館の明かりを消して鍵をかけ、更衣室も施錠すると、教官室に鍵を返しに行く。広大な敷地の学校のため、体育館の鍵はいくつかある体育施設の中心にある体育教官室に保管する。職員室では管理していないのだ。

鍵を返して、ファイルに名前と時刻を書いてから部室棟に戻る。寮に戻るには部室棟の正面を通っていくのだ。すっかり暗くなった敷地は、街灯が定間隔で明かりを灯すため、道だけは明るい。そこに、レギュラー陣と川西が待っているのが見えた。先に帰っていると思っていた。




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