連載: cuddle eagle struggle−寄り道
「え、待っててくれたんすか」
「おう、若利と川西が待つって言うから」
瀬見が答えると、若利は分かるとして川西も頷いていた。意外に思っていると、意外だと思っているのが分かったのか川西は少し憮然とした。
「今日、結構仲良くなったと思ったんだけど。先に帰んのはちょっと薄情っしょ」
「…おー、さんきゅ」
なんだかそういう風に言ってもらえるような関係は初めてな気がして、伊吹は目線を逸らす。気恥ずかしいというか、川西はこう見えて情に篤いところもあるのだと知った。
「かぁいいな〜伊吹。ってか伊吹って呼んでいいか?」
すると瀬見がそんなことを尋ねて来た。呼んでから聞くと言う事後承認に、先輩らしい強引さを感じつつ、あまりこだわりもないので頷いた。
「んじゃ俺も呼ぶネ〜、俺のことはさとりんでもいいよ」
「あ、間に合ってます」
「ぶっは!ウケるな!じゃあ俺も伊吹って呼ぶわ!」
「うす」
天童と山形も乗っかって来た。天童はいなされたことにケタケタと笑い、山形もはっきりと言う伊吹を快活に笑い飛ばした。大平も、「そろそろ帰るぞ。騒がしくて悪いな、伊吹」とさりげなく名前で呼んできた。距離感が近いというか、結構ぐいぐいと来るのだな、と伊吹は他人事のように思った。自分が呼び方を変えるわけではないからか、あまりそこは頓着していなかった。
ようやく寮への帰路についた一行だが、すぐに山形が「購買寄ろうぜ!」と言い出した。
白鳥沢には二か所購買があり、校舎内と、寮と体育施設の間にそれぞれ立っている。購買と言ってもそれは実質コンビニのそれと同じだ。寮の近くの方は21時までやっているのもありがたかった。21時以降は敷地から出られなくなるためだ。
少し大平が困ったように呆れていることから、恐らく彼らのテンションは普段より若干高いのだと推測される。なんだかんだ彼らも、後輩ができたことに少しはテンションが上がっているらしい。
山形の提案に乗った瀬見や天童に連れられ、伊吹たちは購買に入る。一方、きちんと勉強する大平と21時には寝る若利は先に寮へ戻った。あれほど伊吹に会えて嬉しいと言いつつあっさり帰るあたり、若利は本当にマイペースなのだ。
騒ぐ山形と瀬見、天童に続いて川西と伊吹も購買に入る。特に買う予定はないが、僅かな時間を惜しむほど追われているわけでもないので、断らずについてきた。
「伊吹は何買うんだ?寄り道んときとか」
すると山形がそんなことを聞いてきた。なんとなく固まってお菓子コーナーからアイスコーナーに抜けようとしていたときだった。嘘をつくことでもない、伊吹は正直に答える。
「や、俺はなんも。寄り道もしねっす、金ないんで」
途端に、先輩3人は伊吹の事情を思い出したらしい。やはりシングルの家庭などそう見かけるわけでもない、普通に過ごしている伊吹から、そうした経済的事情はすぐに連想されないだろう。高校生なのだ、それは仕方ないことだし、伊吹はまったく気にしていない。それでも、明らかに3人は「やっちまった」という顔をして、川西も「あーあ」という表情を浮かべた。分かりやすい。
ただ、ここで申し訳なさそうにするのも違うと思ったのだろう、天童はすぐに空気を払しょくするように肩を抱いてきた。
「じゃあ先輩たちが奢ってあげよう!」
「マジすか、あざぁす」
それに乗ったのは川西で、低くだるそうに礼を言った。「お前に言ってねぇわ」と笑いつつ、3人は後輩2人のために財布を開いた。
「や、そんな、悪いんで、」
「遠慮しないでいいヨ〜、ほら、年上だし?」
「でも……」
中学のときは中学生という身分柄先輩に奢らせるようなことはしなかったし、若利に対してももちろんなかった。そのため、普段は不遜な態度をしている自覚がある伊吹とて、さすがに気が引けた。それに彼らはバイトをしているわけでもないのだ。
それくらいはお見通しらしい天童は、それでも引き下がらない。
「若利君は先輩にしては不甲斐ないしねぇ、先輩に甘えるってのも学ぶべきじゃない?」
「甘えるって……」
たかが一個差だろう、と思うが、しかし中高生の一個差があまりに大きいというのは当事者が一番分かっているものだ。天童は広い瀬見の背中をぱし、と叩いた。
「英太君、先輩とは何たるか教えてやって〜」
「ん?あぁ、若利はほぼ後輩みてぇになってたんだっけか」
瀬見は天童の意図を汲むと、伊吹の肩を抱いて店内を進みだした。身長差があるからか、やたら皆この姿勢で伊吹を連れまわす。瀬見とは恐らく7センチほどあるかどうかというところで、山形とも4センチかそれくらい、天童は15センチ程度の差がある。バレー部で170センチというのが小さいのだ。
「食いモンでもいいけど、もう飯だしな。飲みモンにしとくか?なんでもいいぞ」
「…、でも、瀬見さん、」
「いいからいいから!」