連載: cuddle eagle struggle−2
爽やかに笑う瀬見に、これ以上の固辞は効かないと伊吹は諦めた。誰かに「してもらう」ということに慣れていないため、どうすればいいのか分からない。だが、ふと、商品棚に並ぶ黒い炭酸飲料が目に入った。
「…じゃあ、コーラで」
「お、意外だな!伊吹ってもっと渋いモン飲んでそうなのに」
「英太って結構失礼だよな!」
聞いていた山形は瀬見のわりとデリカシーのないところを知っているようで、おかしそうに笑う。その手には川西が頼んだらしいサイダーがいた。
「…昔、若利と一緒に、若利の親から歯が溶けるから飲むなって言われてて。今はさすがにそれを守ってるつもりもねぇんすけど、なんとなく、小さい頃に禁止されてたモンって癖で選ばなくなってて…」
「まさか初コーラか!?」
「……っす。若利が禁じられてんのに俺だけ抜け駆けしちゃダメだろって思って、隠れて飲むこともしなかったら、いつの間にか今に」
コーラを飲んだことがないと素直に言えば全員驚いていた。天童は「人生損してる!」と叫び、山形も「そんなヤツいんだなぁ」と感心していた。
川西だけは「速く飲みません?」と急かしており、こいつもマイペースな人種だと察した。
「うっし!じゃあ今日は伊吹の初コーラ記念日だな!」
やはり兄貴肌らしい瀬見は快活にそう言うと、さっそくレジに通しに行く。山形も川西の分を持っていき、天童は3人分のアイスを買っていた。
「…いいのか、こんなん」
「運動部ってこういうモンだろ」
ぼそりと隣にいた川西に呟くと、なんでもないように言われる。それが普通らしい。
先に店を出ると、すぐに3人も合流した。コーラを渡されて、だんだんとドキドキとしてくる。
「え、大丈夫すか、爆発しません?」
「それは運しだいだヨ」
「えっ、」
天童にニヤリと言われ、キャップを握る手が止まる。よく炭酸が吹きだすシーンを見たことがあるからだ。瀬見は呆れたように「こら」と諫めると、伊吹の手からコーラを取った。
「いいか、こう、固かったら警戒した方がいい。そんで、キャップをしっかり覆うように握って、服にかかんねぇように離れて持つ」
「や、やっぱ危ねぇんすか」
「いや、一応だって、心配すんな」
「コーラの開け方のレクチャーとか初めて見ました」
川西が慣れたようにサイダーをぷしゅっと開ける。確かに、ペットボトルの開け方を教わるなど伊吹も思わなかった。
しかし特に何事もなくコーラは開き、瀬見はボトルを伊吹に手渡す。
「あざます…」
「ほら、飲んでみ」
瀬見に促され、伊吹は恐る恐る口をつけた。唇に弾ける炭酸を僅かに感じながら傾ける。普段のお茶と同じ感覚で流し込むと、「あ、馬鹿」と瀬見が止めようとした。
だがそれは遅く、突如として口内と喉を襲った強烈な炭酸に、伊吹は目を見開いてむせた。
「っ!?!?げほっげほっ、!!」
「バッカだねぇ〜!!」
「うはは、何やってんだ伊吹!」
天童と山形は笑っているが笑いごとではない。瀬見は慌てて背中を摩り、ティッシュで零れた分をふき取る。パシャ、と川西はその様子をスマホで撮っていた。死ぬかと思った伊吹は、とりあえず他人事として笑う先輩たちに当たるわけにもいかないので川西に肩パンをかました。
「い”っでェ!!?」
「げっほげほっ、おえ…ハッ、どうだ川西…空手黒帯の肩パンはよォ…!」
「えげつねぇモンかますなよ…!」
なんとか喉元を衝撃が過ぎ去った伊吹は、息を切らしながらコーラを見つめる。とんだ劇物だが、しかしその甘さは不思議な美味しさで、癖になる。もう一度そっと飲んでみれば、次ははっきりと美味しいと感じられた。安っぽいような感じもするが、次の一口が自然と誘われる。
「てか伊吹、空手黒帯ってすごいネ〜?それであんなつえーサーブ打ったわけか」
「あ、はい。地力は強くねっすけど、使い方は空手由来っつか。バレーに生かして、体全体で叩きつけてます」
変なところで伊吹の強烈なサーブのことが明らかになった。ようやく落ち着いた伊吹を見て、瀬見は背中から手を離してゴミ箱にティッシュを捨てた。
「すんません瀬見さん」
「いいって。それよりどうだった?初コーラ」
「うまいっす。人生損してました」
「そーだろー」
「なんで英太君がどや顔してんのさ」