連載: rack up, good luck !−2


それは1か月前、3月に行われた県民体育大会でのことだった。
全国大会の予選とは異なり、県内だけで完結するいわゆる県大会というやつで、県内の学校が一堂に会する数少ない機会のひとつでもある。時期も3月という代替わりの季節だけあって、新たなメンバーでの調整や4月からのレギュラーの前哨戦など様々な位置付けができた。
烏野も、澤村たちの代が主軸となるにあたり、その力試しのように出場したわけだが、そこで問題が起こった。

相手は伊達工業、宮城県内では強豪校のひとつで、予選上位の常連である。

県内では、基本的に白鳥沢学園が常にトップをかっ攫い、たまに青葉城西、伊達工業が隙を狙う。烏野、条善寺、角川などは中堅のようなレベルで、青城や伊達工業には勝てたり勝てなかったりというところだ。

3月の県大会で烏野が当たったのが、伊達工業で、県内で最も守備が強い学校だった。「伊達の鉄壁」と称されるほどで、その厚く高いブロックは歴代変わらず主軸となってきた要素だ。

烏野のエースは半年ほど前からすでに東峰で決まっていて、その威力はエースを張るに相応しいものだった。澤村のレシーブも安定していたし、西谷はもちろん天才。東峰と同じレフトの田中やセッターの菅原だって、レベルは決して低くなかった。

それでも、決まらなかった。

東峰のアタックは軒並み鉄壁に阻まれ、エースは、潰された。コートサイドにいたのは清水だったため伊吹は上からの応援だったが、明らかに東峰は最後、トスを呼ばなかったのだ。
心が折れてしまったのである。

試合中にそうなる場面は、多くはないが見たことがないわけでもない。中学は強豪校だったから尚更相手によく見られたし、また、決して勝てなかった白鳥沢の前に自分たちにもそうなった者がいた。

あの夜、体育館に戻って反省と練習をしたあとに、用具を片付けているときだった。


用具室にビブスを片付けていると、モップを持っていた西谷がそのモップを思い切り叩きつけた。壁に跳ね返ったそれは軽い乾いた音を立てて床に転がる。
近くにいた伊吹と、そして東峰の動きも止まる。


「ブロックのフォロー…全然できなかった……!!」


音を聞いて駆け付けてきた澤村たちが用具室の入り口まで来たところで、西谷の悔しそうな声が滲み出るように響いた。
それを聞き、東峰が「なんでだ!?」と突然怒鳴る。


「なんで責めない!?俺のせいで負けたんだろうが!!お前がいくら拾ったって、スパイクが決まんなきゃ意味ないんだよ!!」

「旭!!」


怒声を上げる東峰を、澤村も大声で諫める。主将としてと言うより、澤村のそれは、友人への怒りに近い。
伊吹は咄嗟に、東峰を西谷から離そうと思った。悔しさも怒りも、その強さは長続きしない、せめて一晩経てば冷静になって建設的な話ができるはず。


「東峰さん、そんな思ってもねえこと言ってつらいのあんただろ、いったん、」

「うるさいな!!選手じゃないのに何が分かるんだ!?」


東峰の前に出て押さえようとしたそのとき、東峰が伊吹にもそう怒鳴った。選手じゃないのに、その言葉が、超えてはいけないラインのものだったと、東峰は言った直後に理解したらしい。
サッと青ざめたし、背後からは澤村の本気の怒気が溢れてきたが、それよりも速く、西谷の低い声が落ちた。


「意味ないって、なんですか。じゃあなんで最後トス呼ばなかったんですか。打てる体制でしたよね」

「……俺にあげたってどうせ決めらんねえよ」


菅原は西谷の静かな燃える怒りを感じ取り、冷静な伊吹のことよりも先に西谷をなんとかしようとフォローを入れるも聞いていない。恐らく、怒りのあまり伊吹にかけられた言葉も認識していないのだろう。
伊吹は西谷を物理的に押さえた方がいいと、いったん自分に向けられた言葉は放って振り返る。



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