連載: rack up, good luck !−vs烏野町内会チーム
西谷が部活には戻らないまでも日向たちにレシーブを教えてくれるようになった、次の日。
伊吹は用具の準備をしながら、通り過ぎ様に田中と西谷にスクイズボトルを手渡した。受け取った田中の腕が赤くなっていたのでペチンと叩いてやると、田中はげんなりとこちらを見る。
「お前昨日ほんっと容赦なかったよな」
「うはは、ほんとにな!伊吹のスパイク全然衰えねぇな!」
「西谷のレシーブもな」
昨日レシーブ練のため、1時間ほどかけて全員にスパイクをぶち込んだときのことを言っている。
西谷は横から見てアドバイスをしていたが、やがてウズウズとして練習に混ざり、一番多く伊吹のスパイクを返してみせた。次に澤村、そして影山。縁下や田中、菅原もそれなりだったが、月島や山口は先ほど目が合うと逸らされた。
できればできるほど威力を上げたため、西谷と澤村と影山には最終的にジャンプサーブを打ち込んだ。あの影山が、いったんストップを申し出るくらいには痛めつけてやった。
早々に月島などは「そろそろ限界です」と息を切らして抜かしてきたため、「聞こえねえぞ」と吐き捨ててさらに数十本入れた。
なお、日向は最後までうまく返せなかったが、すべてについてきた。そのタフネスはさすがである。
そんな中でもきっちり返してみせた西谷は、謹慎中はママさんバレーに混ざってブロックフォローの練習をしていたらしく、田中はその男気に泣いていた。
と、そこへ、体育館の扉が開いて武田が入ってくる。気付いた澤村が集合をかけるが、続いて入ってきた人物に全員がぎょっとした。
「紹介します!今日からコーチをお願いする、烏養君です!」
なんとそこにいたのは、烏野の近くにある坂ノ下商店の店番をしていた男だった。オールバックの金髪の不良っぽい青年だ。
武田いわく、前監督でありかつて烏野を全国に導いた烏養の孫だという。
ゴールデンウィークには合宿を控えている烏野バレー部だが、その最終日には烏野の因縁の相手、東京都立音駒高校との練習試合がある。「猫対烏、ゴミ捨て場の決戦」と称されるほど地元でも知られたライバル関係の2校だが、最近は疎遠だった。
武田が執念で練習試合を組んだことを聞いた烏養が、恥ずかしいところは見せられないと言ってコーチを引き受けたらしい。
「時間ねぇんださっさとやるぞ!相手はもう呼んである!」
「えっ!?相手!?」
なかなか試合相手が見付からないのがネックだったのだ、急なことに澤村が驚くと、烏養はニヤリとした。
「烏野町内会チームだ」
***
訳ありと言葉を濁して、部活に正式に復帰していない体をしている西谷は町内会チームに入った。セッターとWSがまだ足りないらしく、伊吹が入る可能性も出て来たところでのことだった。
「あっ、旭さんだ!!!」
体育館に、日向の大きな声が響いた。窓の格子に掴まって張り付いた日向は、外にいる東峰を見付けたらしい。
事情を知らない烏養がズカズカと扉まで向かうと、外に出て東峰を見付けたのか「遅刻か舐めてんのか!」と早速怒る。
そのまま強引に招き入れた烏養によって、東峰が、黒いジャージに着替えて体育館に足を踏み入れた。
あと1人、セッターが足りないため、烏養は影山と菅原に声を掛ける。東峰のことだけでなく正セッターのこともあり、輪を掛けて気まずい空気が流れるが、菅原が町内会チームへ向かった。正セッターであるのにだ。
影山はすかさず、「俺に譲るとかじゃないですよね」と引き留めた。
「菅原さんが引いて俺が繰り上げ、みたいの……ゴメンですよ」
「……俺は、影山が入ってきて、正セッター争いしてやるって思う反面、どっかで……ほっとしてた気がする」
菅原は立ち止まるが、振り返らずに、絞り出すように話し始めた。
「セッターはチームの攻撃の軸だ。一番頑丈でなくちゃいけない。でも俺は、トスを上げることにビビってた……俺のトスでまた、スパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて、圧倒的な実力の影山の陰に隠れて……安心、してたんだ……!!」
あの試合が燻っていたのは、東峰や西谷だけではなかった。トスを上げていた菅原もまた、己の至らなさを痛感していたのだ。
「スパイクがブロックに捕まる瞬間考えると、今も恐い。けど、もう一回俺にトス上げさせてくれ、旭」
これは、町内会チームと現役との戦いであるが同時に、2、3年の過去との戦いでもあるのだ。