連載: rack up, good luck !−2
烏野町内会チームと現役チームの試合が始まった。
伊吹は清水とともに得点板を担当する。隣には山口が立っていた。
まずは町内会側、菅原のAクイックをMBの滝ノ上が決める。近所の電気店を営んでいるらしい。仙台市の外れにあるこの烏野という地区は、場所柄もあって田舎的で、仙台の郊外にあたる地域だった。そのため家族経営の店も多く、意外と若者が残っているため、この町内会チームも若い層が多かった。
Aクイックとは速攻の一種だ。速攻という攻撃自体は、基本的にMB、すなわちセンターのポジションが行うものである。セッターとの距離が近いところにセンターがいることが多いため、トスに対してスパイクをするまでのラグが少なく、ブロックを振りきりやすい。
ブロックを避けるように攻撃するのが速攻(クイック)で、対してWSのサイドが行う攻撃はブロックを破るアタックとなる。
その速攻は、セッターを基準にした攻撃位置によってA〜Dクイックに分類される。セッターを中心に、AとBがセッター正面、CとDが背面だ。そしてBとDはそれぞれセッターから遠い位置で、AとCがセッターに近い位置となる。セッターがレフトを向くことが多いこともあって、レフト側のセッターに近いAクイックが最も速攻として一般的なものだった。先ほどの滝ノ上の速攻もそうだった。
その直後、今度は現役チームがサーブカットを速やかにセッター影山に返球すると、影山はレフト側を向いていながら背面のすぐ近くにトスをした。Cクイックだ。それを日向が高い打点で打ちおろす。相変わらず180センチ代の選手でも高いと感じる打点である。
日向は相変わらずよく飛ぶが、レシーブもサーブもまだまだへたくそだ。日向のサーブはギリギリでネットイン、慌てて小売店を営む嶋田が上げた。それを大学生の森がカバーした。
「そこのロン毛兄ちゃんラスト頼む!」
呼ばれたのは東峰だ。なんとか東峰は走り出しで飛び、影山と月島と田中の三枚ブロックに叩きつける。重い音がしたが、ブロックを破ることは適わずに自陣に戻って来た。しかし影山も珍しく体勢を崩していた。
ブロックに止められたボールは町内会チームに落ちる。それを、西谷が手の甲で上げて見せた。鮮やかなフォローだ。謹慎中も西谷は、エースが何度ブロックに捕まってもチャンスを捻りだせるよう、自分でブロックフォローの練習をしていたと言っていた。
「…ナイスフォロー、西谷」
東峰が戻ってくると信じて、またエースが繋いだボールを決めてくれると信じて、西谷は一か月にもわたって1人で頑張り続けたのだ。日向が影山を信じて飛ぶこともそうだが、誰かを信じて自分の行動を完全に託すことの心理的ストレスは非常に大きい。それだけ、精神的体力を必要とするのだ。
「―――だからもう一回、トスを呼んでくれ!エース!!」
「カバー!」
「オーライ!!」
西谷の叫びは、信じて行った努力を再び誰かに託す切実なものだった。菅原がカバーとトスに入り落下点にスタンバイする。走って来た位置、そしてライトで待つ嶋田を確認した菅原の向きはライト側、背面に東峰がいる。菅原の位置としてかなりライトに寄っていて、それだけ西谷の返球がAパスに近いものであったということだが、ここは本来、オープントスを上げてレフトから東峰のスパイクを促すのが定石だ。
レシーブが乱れセッターへの返球が良くなかった場合、カバーと声を出して、レフトはオープンを呼ぶ。速攻や平行などトリッキーなことができないため、ベーシックなオープントスが最も安定しているのだ。
影山が天才たる所以は、こういうときでも精密なトスができることである。
だが今回は、後衛ライトの嶋田によるバックアタックも菅原の頭にある。
セオリーでは、セッターが前衛のときなど、前衛にスパイク2枚の場合には、セッター対角、ここではセッターのすぐ後ろである後衛ライトにもWSを置くことで後衛からの攻撃であるバックアタックを可能にしておくのが普通だ。右利きが圧倒的に多いためレフトからの攻撃を多用するからだ。今回もレフトにはブロック3枚がついており、意図してのことか分からないが現役はデディケートシフト、レフトかライトにブロック3枚を寄せる戦法を取っている。
この局面にあっては3枚ブロックに東峰を当てるよりも嶋田のバックアタックをする方が確実なのは確かだったし、菅原と嶋田もそのアイコンタクトを取った。しかし、それに気づいた東峰が、叫んだ。
「スガァーーーーッ!!!」
咆哮というよりも、やらせてくれ、という、これもやはり切実な、必死なものだった。
エースが、トスを呼んだのだ。
その声に、自然と、伊吹の視界が歪んだ。
「…東峰さん……!」