連載: rack up, good luck !−3
「もう一本!!!」
東峰の声に、菅原はまったくのブランクなしで応じた。条件反射のように、そのトスは、これまでの1年間で培われた信頼そのものとして美しい放物線を描く。
影山たちのブロックはきっちり3枚、東峰の後ろは西谷が構える。トスも守りも盤石で申し分ない。
そして、先ほどとは比べ物にならないほど大きな轟音とともに、ボールは影山と月島を吹き飛ばし床へ衝突した。伊吹が体全体を使った動作によるライフル銃のようなスパイクだとすれば、東峰のそれは腕力による純粋な力そのもの、まさに戦車砲だ。伊吹はブロックを打ちぬくように放つが、東峰はブロックを正面から破壊するのだ。
田中は先ほどから泣きそうになったり嬉しそうにしたりと騒がしく、澤村も目元を歪ませていた。まだ3点目だ、しかし、その1点がもたらしたものは計り知れなかった。
その後、点差を2点につけて町内会チームが優勢のまま試合は進む。町内会チームはテクニックのある嶋田に威力のある滝ノ上と森、そして初対面でもうまくやりつつ東峰たちと2年に渡るセットアップも経験している菅原と天才的な西谷、主砲たる東峰とかなり編成として強い。対する現役チームは1年が3人で、劣勢である。
するとそこへ、サーブカットでいまいち綺麗な返球をできなかった縁下のボールが現役チームのレフト端へと飛んでいった。影山がセットのために走り、すぐに落下点に入る。向きはレフトのまま、コートの大部分が影山にとっては背面となっている。もうボールは落下していて、体の向きを変える必要はない。だが誰に上げるのか、と思った瞬間、日向が反対側のアンテナ付近まで猛ダッシュしてジャンプした。そこへ影山は瞬間的に照準を合わせると、華麗なDクイックを決めた。
普通、このような広い移動をともなうブロードという攻撃においては声出しが不可欠だ。それは相手に読ませることにはなるが、それでもなお早ければ結局ブロックはついてこられない。しかし声出しすらなかったため、日向は誰の予想もしてなかった空白に飛び込み、影山のトスを打ち切った。
「ウォい!!」
さすがに烏養は理解の範疇を超えすぎて怒鳴るように日向を呼び止めた。
「今なんでそこに飛んでた!?ちんちくりん!!」
「ちんっ…どこにいてもトスが来るから、です…」
「…まぁ、そうなるよなぁ」
思わず伊吹が呟くと、隣にいた山口も「そうですよね」と笑う。最初は誰しもが何が起こっているか分からないものだ。
「なんなんだお前ら!変人か!!」
どこに飛んでも照準を合わせる天才・影山、どこに飛んでもトスが来ると信じてスパイクができる日向。確かにそんなものは正気の沙汰ではない。
しかし変人に目がくらんでも、町内会チームは堅実だった。
続くラリー、菅原は東峰にレフト平行でトスを出した。
平行とはネットに対してほぼ平行に飛ぶようなトスのことで、放物線を描く山なりのオープントスと異なり速度が速い。ブロックを振り切るような攻撃は、セッターと近いMBに対する速攻で行うことが多いものの、レベルの高いセットアップであれば平行によってWSがサイドからそのような速い攻撃が可能だ。菅原は合図を出して平行を通告するが、北一時代、及川と岩泉は合図なしでその場で平行によるスパイクを決められた。
速い攻撃は強みだが、失敗すれば目も当てられない平行によるスパイク。速攻も平行も自在に使い分けられる熟練された町内会側の現役組は、まるで小回りが利き素早い砲身の展開ができた第二次世界大戦のドイツの名戦車、タイガーのようだ。
そんな東峰たちの平行にも、徐々に日向は食いついてくるようになった。動体視力もそうだが、すぐに東峰の前に飛べる跳躍力のたまものだ。とはいえ、日向は無意識にエースへの憧憬によってコミットブロック状態だった。1人の選手やポジションにブロックを固定されることをコミットという。しかし日向は東峰のスパイクを受け止めきれず、前には出られるがワンタッチにもならずアウトとなってしまう。