連載: rack up, good luck !−4
エースになりたいと言っていた日向は、実際のエースを前にして何を思っているのか。
少なくとも集中が切れたのは確かで、直後、日向は東峰の強烈なスパイクをバウンドもなしで思い切り顔面で受け止めた。さすがの影山も愕然とし、田中は痛そうなそれに叫び、東峰は情けない声を発した。
選手たちはもちろん、伊吹も慌てて日向に駆け寄った。床にリバウンドさえしていればまだ勢いは殺せていたはずだが、もろに入った。伊吹だったら絶対に嫌だと心臓が冷える心地すらする。
日向の側に駆け寄って、涙目になって額を抑える日向の手をそっとどける。
「おら日向、ちょっとツラ貸せ」
「伊吹それ呼び出しじゃねぇか!」
思いのほか大丈夫そうな様子に、近くまで来た西谷は軽く笑い飛ばす。東峰は「ごめんなぁあああ」と震えていた。伊吹はまず目を確認し、出血や裂傷、擦傷の有無を確認する。
「目立った外傷はねぇか。頭は…まぁ元からアレか」
「ぶっ、」
中身も大丈夫そうだと判断すると、月島が噴き出した。クールなわりに案外沸点が低いのだ。
それでも心配するお父さん澤村に日向は必死に「大丈夫です」と繰り返す。
「ほ、ほんとに大丈夫です!顔面受け慣れてるし!」
「慣れるなよ…」
「あはは……」
安心したように笑う菅原に日向も苦笑を返すが、その先に影山を見つけて固まった。凶悪な顔をしている。怒鳴らないその怒り方は青城との練習試合での後頭部サーブを彷彿とさせる。
「俺は知ってるぞ…」
「っ!?」
影山はキレてはいるようだが、しかし冷静だった。日向の心境を、よく理解しているらしい。
「『エースはかっこいいけど自分の一番の武器が囮なんて地味でかっこ悪い。自分に東峰さんみたいなタッパとかパワーがあればエースになれるのに』」
「そっ、そんなこと思ってない!……くも…ない……けど……」
人一倍バレーが好きで、だからこそ本気で、エースになりたくて。しかし体格の差は決して埋まらない。そのままならなさは、日向を焦らせていたのかもしれないし、その足を鈍らせていたのかもしれない。どうしようもないラインを、本人が一番理解しているからだ。
「…エースがいるって分かってから、興味とか憧れとかの他に…嫉妬してたろ」
きっとそれは、仕方のないことだ。伊吹だって、中学まではこの身長でも何とかなったが、高校でも伸びる気配がないため、恐らく、伊吹の選手としての限界は早かった。遅かれ早かれ、伊吹はコートに立てなくなっていただろう。伊吹は日向のように高く飛ぶことができないため、いくらスパイクで3枚ブロックを打ちぬけようが、上からかぶさってくるものを失点なしで抜くことは難しい。同じくらいの威力があるスパイカーなら、背が高くてよりブロックを上からねじ伏せ失点なしで得点できる方を選ぶだろう。
「試合中に余計なこと考えてんじゃねーよ」
「……羨ましくて、何が悪いんだ…もともとでっかいお前になんか、絶対分かんないんだよ!!」
日向の本気の剣幕に、さすがに澤村が諫めようとしたところで、見回りの教師が体育館に入って来た。それには武田が対応し、空気が切り替わったところで澤村は試合の再開を告げる。
第二セット、点差は14対8で町内会がリード。現役側には田中と日向が前衛で上がり攻撃力が上がった。すると、影山は町内会側前衛である滝ノ上と東峰にネット越しに声をかけた。
「あの、次こいつにトス上げるんで、全力でブロックしてください」
「なんだぁ!?挑発かぁ!?」
「ハイ挑発です!ナメた真似してすみません!」