連載: rack up, good luck !−2
田中ととりとめもないことも話しながら廊下を進んでいると、階段のところで見慣れた2人の姿を見つけた。真っ先に田中が声を張り上げてその名前を呼ぶ。
「あっ、大地さーん!!スガさーん!!」
「うるせぇハゲ……」
「ハゲじゃねぇわ!!」
廊下の生徒たちがびっくりして視線を寄越すくらいには野太く響いた声に、呼ばれた側も苦笑しながら振り返った。
「おいおい、そんなでっけー声で呼ばなくても分かるって田中」
「お前らもHR終わったところか」
明るい髪に泣き黒子が特徴的な菅原孝支、短い黒髪に精悍な顔の澤村大地はともにバレー部の3年生で、澤村が主将、菅原が副主将になった。
「ちわっす。こいつにやかましく呼び出されました」
「一言多いよなァお前!」
親指でくいっと示せば田中が噛みついてくる。そんな2人に菅原は優し気に笑いながら「まぁまぁ」と宥める。
澤村も爽やかな苦笑を返した。
「2人とも、あんま乱暴な態度してると不良だと思われるぞ」
「大地さん、俺はともかくこいつはマジな不良っスよ、進学クラスなのに!」
「不良じゃねっす」
「そうだなぁ、不良は授業中ずっと起きて学年1位とらないからな」
澤村はそう言うと伊吹の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。5センチくらいしか変わらないはずなのに、この先輩にはよくこうして撫でられるのだ。釈然としないが、先輩相手にあまり拒否するわけにもいかず甘んじている。
「そういえば、さっそく2人分、入部届もらったぞ」
ふと思い出したように、澤村は伊吹の頭から手を離してプリントを2枚取り出す。後輩という存在にわくわくとする田中が「おお、」と反応し、菅原はそれを微笑ましそうにしている。こんな純朴そうな感じの先輩だが、菅原も普通に男子、結構えぐい下ネタを普通に言うし、伊吹はそれを好ましく思っていたりする。
澤村が取り出した入部届はどちらも少し皺が寄っていて、そういうところをきちんとする澤村のことを考えれば、プリントをくしゃりとさせたのは出した後輩たちだと分かる。
「一人はあの影山だ。北一の」
「えっ、あの天才セッターっスか!!」
「びっくりだよなぁ」
澤村が出した名前に驚いたのは田中だけではない。人に興味がない伊吹でも知っている、というかなんなら深い関係のある名前だったため、伊吹も驚いた。
「伊吹の後輩だろ?」
プリントの名前を見せて確認してくる澤村に、伊吹は驚きつつ頷いた。影山飛雄、中学時代にバレー部の後輩だった名前だ。またこの烏野で後輩になるらしい。
「…青城か、白鳥沢でも行くのかと思ってた」
「そうだよなぁ、強豪校に行きそうなヤツだったけど…」
その点は澤村も解せないようだが、こればかりはいろいろと事情があるし、もっと言えば伊吹だって同じことを言われる側だ。これでも、中学時代は県内外で名前を知られる選手だった、らしい。自分のこととはいえ周りに関心がなく、人にそう言われていたのを伊吹も聞いただけだ。だから、相手は一方的に伊吹のことを知っているというのはよくあることだった。
4人はとりあえず部室棟の方へ歩き出しながら、期待の後輩の話がなおも話題に上る。
「どんなヤツなんだ?」
さっそく後輩が気になって仕方がない様子の田中に聞かれ、伊吹は考える。確か、この3人は中総体の影山の試合を見に行っているはずだから、まったく知らないわけではない。恐らく、人間的な部分を聞きたいのだろう。
最後に会ったのは、その中総体の県予選決勝、夏の日のことだ。あのときのことを思い出して、伊吹はなんと言おうか迷ってしまう。
「なんつか…まぁ、バレー以外はてんで不器用なヤツ」