連載: rack up, good luck !−6


日向がメンタルを復帰させたものの、現役チームは依然としてかなりの点差がある。ここから立て直すのは大変だな、と得点板を見ていると、笛が鳴って澤村が烏養に声をかける。


「コーチ、ピンサー入れてもいいですか」

「ピンサー?いんのか」

「選手じゃないんですけど実力を知っててほしくて」

「お、いっすね大地さん!」


烏養はよく分かっていないようにしているが、田中も乗り気なので許可した。話の流れを察した伊吹がげんなりとしたところで、澤村に手招きされた。一度も選手登録をしたことがないマネージャーをピンサーに呼ぶなどどうかしている。駆け出す伊吹に烏養は面食らったようにする。


「は、お前マネージャーだろ」

「ほんとっすよね」


主将に言われれば従わないわけにはいかない。伊吹は月島と交代し、サーブゾーンでボールを受け取る。マネージャーがピンサーで入ったことに大人たちは困惑し、東峰と西谷は顔を引き攣らせ、影山と日向はワクワクとしてこちらを見てくる。
ピッと笛が鳴ったところで、バウンドさせたボールをサーブトスする。助走をつけて飛び上がると、思い切り全身をボールに叩きつけるようにしてサーブを放った。直後、ボールは轟音とともに町内会チームのコートで跳ねていた。


「はぁ!?」


烏養の驚く声が響いた。ボールを受け取り、今度は笛が鳴ると同時にサーブを放つ。西谷が反応したがアウト。続いては8秒間たっぷり待ってやってからボールをぶち込み、東峰がレシーブするもネットに当たった。痛そうな音がしたが、東峰は実際に顔を歪めていた。


「おいそんなモンか西谷ァ!!」

「だぁらァ来いやァ!!!」


4本目、西谷に向けて打てば西谷はなんとか返球する。森がフォローに入って、東峰が思い切りスパイクを決めた。田中のブロックを跳ねのけて打ち込まれたボールによって、ようやく伊吹は出番を終える。


「よくも無茶ぶりしてくれましたね」

「良かったぞ伊吹」


澤村に恨み言のひとつでも言ってやろうとジト目を向けるも、朗らかな笑顔で褒められると許してしまうあたり自分も大概ちょろいと思う。


「おいお前なんでマネージャーやってんだ」

「ま、いろいろ」


伊吹が得点板に戻る途中で烏養に聞かれたが言葉を濁す。合わせて武田に目配せすれば、頷いてくれた。武田に代わりに説明してもらうのだ。その場を任せて得点板に戻ってくる頃には、烏養が少し悔しそうに、気まずそうにしながら武田の話を聞いていた。



その後、現役チームが2点差まで追い詰めたところで、嶋田が大人げないジャンプフローターサーブを解禁した。回転のないそれは予期せぬところへと曲がる魔球のようなもの。4点を連続で決められあっという間にマッチポイントとなった。不慣れなジャンフロといえど、やはりレシーブに問題がある。

そして5球目、ようやく澤村が上げて見せた。日向がすかさずスパイクのために走り込むと、町内会チームもブロックが日向に合わせて動く。しかし影山のトスは、それをあざ笑うように田中に向かい、田中は悪人面でボールを叩き込んだ。目立っていなくてフラストレーションがあるようだ。
だが西谷はそれを完璧に上げて見せ、Aパスで菅原はトスを打つことができた。東峰に慣れたようにオープンを上げると、日向と影山のブロックをぶち抜いて東峰のボールは現役コートに落ちた。

そこで試合は終了、結果は町内会チームのストレート勝ちだった。


西谷も、東峰も戻って来た。武田のおかげで、合宿最終日には音駒との練習試合があるし烏養もコーチとして技術指導をしてくれる。チーム烏野が、ようやく始動するのだ。
弛緩した空気の中で日向と話している東峰を見ていると、突然、伊吹の肩を澤村が抱いてきた。何かと思っていると、そのまま澤村は伊吹を東峰の方へ連れていく。


「えっ、ちょ、なんすか」

「西谷と、スガと、旭と。それだけじゃないだろ」


そう言って澤村が伊吹を東峰の前に連れ出すと、気づいた東峰がハッとする。そして伊吹の正面に来ると、静かに「悪かった」と謝って来た。何かと思って見上げると、近くにいた西谷や田中も首を傾げる。



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