連載: the other rather together−4


「こっから山側にすぐやから頑張れ〜。あ、伊吹が通う野狐中も山側やで。俺らが通うてる稲荷崎は海側な」

「…え、山側、ってどっち」

「どっちて…北?」

「じゃあ北でよくね…?この辺はそういう言い方すんの」

「おう。そういや、言われてみれば大阪市内とかやとそういう表現見いひんなぁ」


兵庫県では、北に山があって南に海があるという地形が、南半分においては共通しているため、北と南とそれぞれ山側と海側とよく言うらしい。日本海側に行けば逆になるそうだ。京都市内で北に行くことを上るというようなニュアンスだろうか。
「はよ行くで」と治が山側に向かってすたすた歩きだすと、侑と伊吹も続いた。


「方言っぽいな。でも、あれだよな、あんま方言っぽい喋り方じゃねぇんだな」

「せやな、兵庫いうてもこの辺は摂津やったから、くくり的には大阪やし。標準関西弁て言えばええんかな、一番オーソドックスな関西弁喋るんが、尼崎から大阪の北の方の地域やね」

「へえ。神戸弁かと思ってた」

「神戸っぽいんが兵庫なんやとすれば、そういうんはぜーんぶ、武庫川より向こうの地域やな。なんとかしとぉ、みたいな喋り方すんのは西宮より向こうやし、メロンパンのことサンライズいうんも向こう、なんなら神戸市内だけや」


すべて初耳だった。どうやら武庫川は、文化的な境界線の役割をしているらしい。神戸弁はこの辺りでは話さないらしく、むしろ大阪寄り。そういえば市外局番も大阪と同じだという。メロンパン発祥の地である神戸は、創業以来の名前であるサンライズがメロンパンを指し、メロンパンという名前の菓子パンはまったく別物を指すということだ。
すると前を歩いている治がふらっと会話に混ざる。


「角名が言うとったけど、日番っていうんも兵庫だけらしいで」

「えっ、そうなん!?」

「日番…?」

「角名って転勤族のヤツがおんねんけどな、標準語喋んねん。そいつん話やと、日直?て他の地域では言うらしい」

「日直のこと日番って言うのか」

「兵庫だけとか知らんかってんけど」


ひょんなところに地域の差というのは出るものだ。それなりに長くこの街にいるのだ、そういうことは知っておいて損はない。侑は今度は伊吹を覗き見るようにして尋ねて来た。


「宮城は?方言とかないん?」

「東北やったらやっぱ、さっぱど分がんねぇず、みたいな感じなん?」

「高齢者はたまにそういう人もいるけど、今時そういう喋り方は東北全体でしねぇな」


とりわけ仙台市内はそうだった。標準語を喋っている自覚があるため、方言のイメージはつかない。ただ、いくつか知っている単語はある。


「ちょっと上の世代だと、ジャージをジャスって言ったり、めっちゃ、ってのを「いきなり」って言ったり、同意を「だから」で示したりしてたな」

「え、どう使うん」

「…そのジャスいきなりかっけぇなぁ、っつってから、別の誰かが「だから!」って言う感じ」


聞いただけだと、ジャスが何か分からないのはいいとして、突然かっこよくなったように聞こえる上に同意の「だから」も「だから何?」「だから〜だったのか」というニュアンスに聞こえる。実際には、「そのジャージすごくかっこいいな」「ほんとそうだね!」という意味となる。これらの方言も、今の若者はほとんど使うことはない。
ただ、意味は分かっているし、あえて若者言葉のように使う者もいた。もう使わない言葉だと分かっていてあえて言う、という若者言葉のリバイバル現象のようなものだ。それがつい癖になってしまって、大学で上京して訛っていると思われるという話を何度か聞いたことがあった。




prev next
back
表紙に戻る