連載: the other rather together−稲荷崎高校バレー部
山側に向かって歩くこと10分ほど、閑静な住宅街にある市民体育館に辿り着いた。夏休みということで人が多いのかと思いきや、暑さのせいか特に賑わいはない。
「盆休みとかやと、学校空いてへんから学生よう来るんやけどなぁ」
「今日の点検はバレー部で使うとるとこだけやしな」
侑と治はそう言いながら慣れたように靴を脱いで、質素なエントランスから中に入る。管理人らしき男性はそれを見て、小窓から顔を出した。
「おお、宮ツインズやないか。久しぶりやなぁ」
「久しぶり〜、なぁおっちゃん見てぇ、うちの新しい弟〜」
侑は男性に気さくに言うと、伊吹の肩を抱いて引き寄せる。汗をかいているはずなのに、ふわりといい匂いがした。
「新しいて、年変わらんやろ」
「1個下〜、再婚したんよ」
「どえ〜、またヘビーな話題いきなし出しよってからにホンマ」
「まっ、野狐中やし世話んなるわ」
緩い会話が続く。伊吹はぺこりと会釈をしておいた。男性は気の良い笑顔で「よろしくな」と言ってくれた。
先に入っていた治に続いて2人も館内に入る。すぐに、シューズの擦れる甲高い音と、ボールが手の平に当たる乾いた音が響いた。
むせ返るような暑さだが、風は通る。山からの比較的涼しい風だ。
広い館内は数人しかいなかった。ダークブラウンの髪の細目、跳ねるように立てさせた銀髪、色黒で顔の濃い男子と茶髪を後ろに跳ねさせた男子。合わせて4人だ。
「おーっす!」
「お、来たな侑…てなんやそのイケメン!?」
元気よく声を上げた侑に全員の視線がこちらに向いた。最初に侑に返した銀髪が驚くと、他のメンバーも目を丸くしていた。少し居心地が悪い。
「今日からうちの弟になった伊吹や!」
「うわ、2人の弟とかすげえやだ……」
「聞こえとるで角名」
すでに着替えを終えていた治が準備運動をしながら細目男子にツッコミを入れる。侑は「紹介するな、」と指でメンバーを指しながら名前を告げていく。
「あの細目のが角名、銀髪のがそのまんま銀島、あの2人は俺らと同じ1年や。んで、あのかっちょいい色黒がアラン君、隣の男前が赤木さん。2人は2年な」
「いやそんな急で覚えられるかい!」
「角名さんと銀島さんとアランさんと赤木さんすね、よろしくお願いします」
「覚えとるんかい!」
切れの良いツッコミを披露したアラン。侑と治はそれを聞いて楽しげにしていた。4人はボールを転がしてこちらに駆け寄ってきてくれた。
「ホンマにイケメンやなぁ」
「はぁ…どうも」
しげしげとこちらを眺めてくる銀島は180センチはある。先ほどの切れ味の良いツッコミの持ち主であるアランと、細目の角名は185前後だろうか。双子が180と少しなようなので、赤木以外全員、伊吹より10センチ以上背が高かった。
その赤木も恐らく174くらいだと思われるので、伊吹よりかは高い。
「アラン君と赤木さんはスタメン、俺ら全員レギュラーなんや」
「稲荷崎の?すげえ」
なんと、侑を含め全員がレギュラーメンバーらしい。全国常連の高校だ、春高では1年もスタメン入りがあり得るだろう。
「へえ、伊吹君バレー分かるんだ。やってた?」
「あ、はい。WSっす」
伊吹が稲荷崎のことを知っていたことから、角名は経験者と判断し、淡々とした声音で聞いてきた。抑揚がない。先ほど治が話していた標準語の人だろう。
「それで連れて来られたわけね。てか出身は?標準語だよね」
「仙台です」
「遠っ!せやったら暑いやろこっち」
「正直運動すんの気乗りしねっす」
赤木はげんなりとした伊吹に苦笑すると、「無理は禁物やで」と頭を豪快に撫でてきた。顔と同じく男前な性格である。