連載: the other rather together−4
順調に試合は進み、伊吹たちのチームがストレートで勝利した。2年2人を抱えていることもあってある意味当然だ。得点率というより、赤木がいたことによる失点のなさが決め手となった。
中総体以来に久しぶりにバレーをしたが、こんなに気を抜いて楽しくできたのはもっと久しぶりだった。
すでに日差しは傾き始めていて、暑さはピークに達している。
「はぁ〜、くっそ疲れた…」
「体力はまだまだやなぁ」
思わず倒れ込んだ伊吹に、赤木が軽く笑う。若い方が元気、というのは大学生になってから発動するルールであり、中高生の間は上級生の方が圧倒的に体力がある。
「ほな帰んで」
「腹減ったー!なぁお好み焼き寄ってこー!」
アランの号令で帰るムードになると、侑が元気よく言った。さすがにレギュラーだけあり、疲労は心地よいレベルにしか感じていないのだろう。
侑の誘いに治が激しく頷き、銀島も同意する。断る必要もない、伊吹も頷いて、結局全員で向かうことになった。
汗だくの体をタオルやら制汗剤やらでなんとかして、着替えたものを鞄に突っ込む。全員で管理人の男性に挨拶をしてから、熱の籠もった大気の外へ。
「……暑い以外の感情なくした」
「なんやて!?そんな伊吹に兄弟の愛のキスしたろか!?」
「え、悪い聞こえなかった……もう一度、言えるモンなら言ってみろ」
ぐっと拳を握りしめてやれば、馬鹿なことをのたまった侑は角名の後ろに隠れた。なんの雪の女王を見たのかは知らないが、この暑さでは他人が30センチ以内にいることがもう無理だった。
そんなことを適当に喋りながら、海側へ歩くこと15分、武庫之荘駅までほど近いところでレトロな店にずかずかと押し入った。慣れた様子に気さくな店主との会話からして、よく来ているらしい。
そしてまたも、侑が伊吹の肩を抱くようにして引っ張った。
「見てぇこのイケメン!俺の新しい弟!」
「ほお、イケメンは生まれたときからイケメンなんやな」
「生まれたてホヤホヤとちゃうわ!再婚相手の子ぉなんよ!」
コントでもしないと気が済まないのかというくらい、毎度会話に癖がある。店主の中年男性に会釈すると、人好きのする笑顔で「よろしゅうな」と返してくれた。
一同は8人席に通されて、伊吹を挟むように右側に侑、左側に治が座った。侑の右側に銀島が座り、向かいにはアランと赤木と角名。座る位置をもう少し工夫できなかったのかと思う次第である。
治が目をギラギラとさせてメニュー表を抱えているため、侑が伊吹にメニューをもうひとつ見せてくれた。手書きのものだ。
銀島やアランたちは見なくてもいいらしい。
「ここのめっちゃ美味いねん!とりあえずオーソドックスなやつ食うてみて!どうせ治が大量に頼むし、なんか他に希望あったら言うてええで」
「…どんどん焼きって、やっぱねぇんだな」
「どんどん?」
さっとメニューを見てみると、仙台で見慣れた名前を見なかったので、改めて特有のものだったのだと実感した。
どんどん焼きは仙台のお好み焼きの一種で、薄めの生地を半分に畳んで半円にするのが特徴だ。
「折りたたんで半円にした生地を醤油で味付けすんの。仙台では関西風と広島風と並んで有名、てか場合によってはお好み焼き=どんどん焼きみたいに売ってたとこもあったな」
「へぇ〜、おもろいなあ。にしてもやっぱなんでも醤油なんやね、芋煮とか」
「………は?今なんつった????」
聞き捨てならない暴言に、伊吹の目が据わる。左側で治が「バカ侑!」と注意したがもう遅い。
「迂闊に芋煮の話題出したらあかん言うたやろ!」
「え…俺間違っとった……?」
「醤油の芋煮は山形やんな?な?怒らんどってやって、」
慌てて赤木が宥めにかかる。侑は冷や汗を流していた。芋煮を醤油で味付けるという文章そのものが宮城県民にはタブーだ。殺されても文句は言えない。
「味噌で味付けするのが芋煮の真の姿に決まってんだろが」
「実際それ豚汁やんな」
「バカ治…!」
アランが頭を抱えた。この世には思っても言ってはいけないことがいくつかあるわけだが、宮城の芋煮を豚汁と呼ぶのもそれだった。ちょっと自覚があるだけに尚更禁句である。
伊吹は両サイドに肩パンを食らわせた。音もなく2人が沈む。筋肉に阻まれたが、衝撃は心臓まで届いただろう。
我関せずといったように、角名はひょいひょいと注文を始めていた。