連載: the other rather together−2


「やって部活しとるんに邪魔しよる豚に喧しい言うて何が悪いんや」

「好意は好意、それに悪気もねぇなら、普通は感謝の気持ちも含めてマイルドな言い方すんだろ。相手の立場に立つことはしないで、自分の価値観だけを大事にしてる。だから、そういう暴言も言わないまでも本人に伝わるように機嫌悪くしたり睨んだりしてんじゃね?」


よく喋ると思えば、ドンピシャだ。治も笑いから驚きに変わっていた。初対面でそこまで見抜いたこと、そしてそれをはっきり言ったことに対してだ。


「…で、それをあえて言ったんはなんでなん?」


侑はそれまでのテンション高めのトーンをやめて、真面目な声音になった。硬質なそれはよく人を萎縮させるが、伊吹は気にした素振りはない。


「特に深い意味はねぇよ。でも、俺はそういうの、むしろ好ましく思うけどな」

「伊吹も性格悪いんやん」

「俺はそういうことしねぇから。ちょっとどうでもよくて興味がねぇだけで攻撃しねぇし」

「ふーん?じゃあなんで好ましく思えんの?」

「それだけ切り捨てて、本気でやってんだろ。バレー」


伊吹はそう言うと、侑を低い位置からすっと見詰めた。射抜くような視線から、目が、離せなくなる。その目線も表情も、不快感はなく、ただ綺麗に微笑んでいた。


「他のやつが気にすることや、自分が他のやつに対して気にしちまうことを全部見ないで、1つの目標に向かって努力できる。性格良く思われたいなんて生半可なこと言わねぇでさ、誰がなんと言おうと上目指してんだろ」

「…っ、」


自分でも意識したことのなかったことを指摘され、息が止まるような気がした。足は少なくとも止まっていて、治は相変わらず驚いて伊吹を見詰めていた。


「…一生懸命全力で取り組むってのが言うほど簡単じゃねぇの、みんな知ってる。だからそれができるアスリートとか東大生とかを尊敬すんだ。侑は、尊敬される方なんだな」


そういうの、格好いいと思う。
そう続けた伊吹の言葉を聞く前に、思わず侑は伊吹を抱き締めていた。どんな感情なのか自分でもよく分からない。
もしかしたら、呆れたようにこちらを見ている治の方が、侑の気持ちを理解しているのかもしれなかった。


「…で、伊吹。侑んことはまあええけど、マネージャーがどうかしたんか」

「あぁそう、それな。俺、稲荷崎行ってバレー部のマネージャーやりてぇ」

「は!?選手やないん!?俺伊吹にトス上げたいねんけど!?」

「うるせぇな…」


治は混乱している侑を放って、伊吹の話の続きを促した。伊吹もそのまま答えたが、まさかの返答に侑は体を離して伊吹の肩を正面から掴む。


「待ってなんで!?」

「……あんま、こういうこと言うのもあれだけどさ。俺、この家になるべく負担かけたくねぇんだよな。世話になることは責任負うことだろ。離婚だ再婚だっつって振り回されんのはもう懲り懲りだし」


ふと侑は、伊吹の深いところが少し見えた気がした。
空手は伊吹の実父から教わったものだと聞いている、恐らく仲は良好だろう。本当は、仙台にいたかったのかもしれない。いや、確実にそうだろう。
具体的に何が伊吹の心残りになっているのかは分からないが、伊吹はそれでもここに来たときに負った心の傷を抱えている。

侑たちには出会いしかなかったが、伊吹は多くの別れの上に、ここに来たのだ。

1人で生きていくことのできない、子供という立場のままならなさを痛感したからこそ、伊吹は負担をかけたくないと望んだ。


「選手やると金かかんだろ。バイトしてえし、金かけねえためにもマネージャーとしてバレーに関わりてぇんだ」


侑の脳裏には、すっと美しく構える伊吹の姿がちらついた。1人で立ちたいと、1人にして欲しいと切望する伊吹の思いが、滲み出ているように感じられた。



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