連載: the other rather together−2


相変わらずの及川に苦笑すると、ふと扉が開く気配がした。振り向くと、扉を開けて侑が立っている。


「…どうかした?」

「いーや?でもちょっと電話しとんの聞こえてもうて…なんや、彼氏?」

「…はぁ?男だけど。宮城の先輩」


侑は読めない笑みを浮かべると隣に腰かけた。やはり甘いいい匂いがした。あまり聞かれたくない会話を聞かれたが、侑ならマシだった。

先ほどの帰り道でも、伊吹は侑の性悪な部分がどこに由来するか分かって、それを好ましく思っていることを伝えた。生半可な覚悟ではないからこその態度であるから、他人を慮ることをしないのだ。それは悪いことだとは思わなかった。
アホそうに見えて頭がキレることは察していたため、侑はすでに伊吹が内心で宮城に残りたかったことも、ここでの暮らしを一時的なものとしてすぐに自立するつもりであることも理解しているだろうと伊吹は踏んでいる。だから、先ほどの及川との会話も聞かれてあまり困る相手ではなかった。


「なんか用事あった?」

「いや?治風呂やし、暇なら2人で話そかなて」

「それで聞き耳かよ」

「やって電話越しにイチャイチャしとるんやもん、攫われてもいいとかエロすぎやろ」

「なんだその感想」


よく分からない感性にはもう慣れた。伊吹はスマホをローテーブルに置いて弄るのをやめる。すると、侑はおもむろに伊吹の肩を引っ張るようにして、伊吹の体を自分にもたれさせた。左側に侑の体温を感じて、肩に頭が乗る。帰り道で抱き締められたときも、伊吹の鼻が鎖骨あたりに当たって包み込まれるようになってしまったが、身長差が大きいことを改めて感じる。


「…俺、こう見えて伊吹との距離の取り方結構考えてんねんで」

「知ってる。お前、後輩とは表面的にしか仲良くできないタイプだろ」

「伊吹てホンマ、ストレートに言うねんな」

「おー。だから友達少ねぇ」

「気にしてへんのやろ」

「どうでもいいな」

「っぽいわぁ。でも、おかげでちょっとやりやすいわ」


侑は誰とでも仲良くできる能力があるが、その実、根本は他人を顧みない自由人でもあるため、後輩のために先輩として頑張るようなことはあまりしないだろう。外面上は仲良くするが、先輩として振る舞うというより、友達的な先輩を演じるはず。それで基本的にはうまくいくだろうし、だいたいの後輩もそういう先輩はかぎ分けられるもので、不用意に近づかないものだ。しかし、伊吹は家族として常に一緒にいることになってしまう。表面的にやるわけにもいかないため、どうしようか考えあぐねていたのだろう。


「別に、家族だから本心で接しないといけないとかないし、全部見せる必要もねぇだろ。俺は侑の性格悪いの知ってるし、自由にしていんじゃね」

「でも嫌やないん?家て一番リラックスするところやんか」

「嫌だったら殴る。やり返されても避ける。そんでぶちのめす。それだけ」

「うわ脳筋」

「悪ぃか。ま、俺はどんなお前らでも受け入れるけど、嫌なモンはあらゆる手で嫌って分からせる。だから自由に今まで通りやれよ」

「…確かに、こんな子ぉが遠く行くてなったら連れ去りたなるわ」


そう言うと、侑は伊吹を抱き締めながらカーペットに押し倒した。情事のそれではなく、単に体重をかけてきただけだ。何してんだ、と抵抗したくなったが、侑は体重のほとんど自分で支えつつ、体で伊吹を床に閉じ込めているような形だった。
仰向けになり、すぐ上に侑の精悍な顔立ちが迫る。


「あれやね、伊吹はこう…構いたなるタイプ」

「なんだそれ」

「見た目もそうやし、ふとしたときの言葉とか、たまに出る笑顔とか。知れば知るほど知りたなるし、無駄に絡みたくなるっちゅーか」


意味が分からないと思ったが、そういえば及川も昔似たようなことを言っていた気がする。というか、侑と及川は何となく似ている気がした。性悪なところや飄々としたところが。
そこへ、扉が開いて風呂上りの治が部屋に戻って来た。そして、伊吹を押し倒す侑を見てぎょっとする。すかさず伊吹は治に手を伸ばした。


「お、治っ、助けて…!」

「へっ、ちょ、」

「なにやっとんねんこの発情豚ッ!!」


痛そうな音とともに、治に蹴り飛ばされた侑がカーペットに転がる。テーブルに足をぶつけて喚いていた。治はすぐに伊吹に駆け寄り、抱え起こして庇う様に抱き締めた。


「もう大丈夫やで」

「こ、怖かった…っ!」

「嘘こけ!自分さっき嫌なことあったら殴る言うてたやろ!!」


当然治も理解している。伊吹はわりとすぐに手足が出るタイプなのだ、侑とそういうことになっていたわけではないと分かっているが、あえて蹴り飛ばしたようだ。ふざけているにしては容赦がないのが双子の兄弟らしい。風呂上りらしく石鹸の良い匂いを漂わせる治は、まだ髪が濡れていて銀髪も濃くなっていた。
すんすんとその石鹸の匂いを嗅いで、この家はこういう系統なのか、と分析していると、治が押し黙る。


「…伊吹、あんまそういうことしとるとな、襲われても文句言えへんで」

「あのさぁ、お前らモテるだろ?わざわざ俺に色めいてんじゃねぇよ」

「エロい伊吹が悪いやろ!」


痛がっていた侑の言葉に治が頷く。いい加減この双子の変な感性は突っ込んでも仕方がない。伊吹はそれ以上の追求を諦めて、「そんな肩パン好きなのか?」と言って黙らせた。




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