連載: the other rather together−夜中のリビング
夕飯の寿司を食べ、寝る準備も済ませれば、長かった一日が終わる。朝、仙台を離れたばかりというのが信じられない。そして一日のほとんどをバレーに当てたあたり、本当にバレーが好きなんだなと自分のことなのに呆れてしまった。
一息ついてあとは寝るだけ、という夜の時間は心地が良い。ソファーに座ってテレビを見ていると、同じ日本なのにまったく異なる番組ばかりで、異文化体験という感覚が今日だけでも凄まじく多かった気がした。
ふと、CMの中に有名なものを見つけ、そういえば、と思い至った。ちょうどそこに、飲み物を取りに降りて来た治と、柔軟を終えた侑が揃ってリビングにやってくる。まるで示し合わせたかのようで、そういうところが双子らしかった。
「あ、ちょうどいいところに」
「ん?どうかした?」
冷蔵庫の中を物色している治に代わって、侑が聞いてくれるようだ。伊吹は番組が始まったのを横目に見つつ、あの噂の真偽を確かめることにする。
「なぁ、関西人はCMのフレーズをまともに言えねぇことがあるってほんとか?今、関西電気保安協会のCM見て思ったんだけど」
「へ、ちょ、伊吹、もっかい言うて」
「?関西電気保安協会」
「ほわぁ〜、治聞いとったか今の」
「聞こえとった。ホンマに普通に言えんねんな」
感心したようにする侑と治。伊吹は理解ができず疑問符を浮かべる。治は麦茶をごくごくと飲んでから、伊吹が座るソファーにやってきて、そして座るのではなく寝そべった。伊吹が端にいたため、余ったスペースに大きな体を窮屈そうに押し込めていた。すぐ隣に治の長い足があり、膝がすぐ近くに迫る。反対側のひじ掛け部分に背中を預けてスマホを弄るだらけぶりだ。
「あんな伊吹、わりとマジで、俺ら関西人は言えへんねや」
「……リピートアフターミー。関西電気保安協会」
「関西っ、電気ほーあん協会」
侑が繰り返した言葉は、アクセントにCMの音色こそついていなかったが、音の溜め方や保安で伸ばしてしまうところなどがCM由来のままだった。ふざけているのだろうか、と伊吹は真剣に考えてしまう。失礼な話だが、関西弁というだけでからかわれているのではないかと、全部がボケで嘘なのではないかと疑ってしまうのが関東・東北の民である。日頃聞く関西弁はお笑い芸人の面白可笑しい話だけなのだ、イメージがそうなってしまっているのは仕方がない。
「分かった。もっかいな、大丈夫、ゆっくりでいい」
「え」
「いいか、いくぞ。関西」
「関西」
「電気」
「電気」
「保安」
「保安」
「協会」
「協会」
ここまでは大丈夫だ。侑は本気かこいつ、という目で伊吹を見つつもきちんと付き合ってくれた。治は面白そうに見ている。
「じゃあ次な。関西電気」
「関西電気」
「保安協会」
「保安協会」
「関西電気保安」
「関西電気保安」
「よし…関西電気保安協会」
「関西っ電気ほーあん協会」
「なんでやねんッッッ!!!!」
伊吹渾身のツッコミは、もはや自然に出てしまっただけだった。侑と治はそれを聞いてゲラゲラと笑っている。「ええやんええやん」と囃し立てているが何も良くない。いったいなぜだ、と伊吹は信じられない気持ちだった。
「普通に言うだけじゃねぇか、関西電気ほーぁん…協会……」
「あれ、今…」
伊吹はバッと口を手の平で覆った。今の自分のアクセントを聞いて愕然とする。それに気づいた侑がニタァ…と嫌な笑みを浮かべた。
「おやぁ〜?なんなん今の?なぁ治?」
「せやなぁ侑。今のは完全に『こっち』寄りやったで」
「ちげぇわ!関西電気ほぉ…保安…ほあ……」
東日本5600万人の名誉のためにもつられるわけにはいかないと伊吹はなぜか都民でもないのに代表のような心持となっていたが、頭の中にはあの昭和感丸出しの音声がぐるぐると流れ続けるのだ。
追い打ちをかけるように、侑と治は伊吹の耳元に口を寄せて口ずさむ。
「ホテル〜ニューあわぁあぁじぃい〜」
「な・ら・けんこーランドっ」
「だぁあやめろふざけんな!夜半に畳みかけるな!」
後学のためにと仙台にいるときに聞いたことがある同じく有名なCMフレーズが追加され、今伊吹の頭の中は謎の3社のフレーズによるお手玉状態だ。癖が強すぎる。つい最近見たお笑い芸人のようなツッコミを入れてしまうと、楽しくなってしまったのか侑が悪乗りする。
「伊吹こそ今何時やと思ってんねん、声がでカルメン」
「「オレ!」」
「やかましいわ」
「あれやな、正味この人らのネタ大学生の学園祭のノリみたいなモンよな」
「わかる」
「なんの話だよ…」