連載: rack up, good luck !−4


そんな影山が烏野に来た。それが吉と出るか凶と出るかはまだまだ分からないけれど、前を歩く逞しい背中の主将は、そういうことをとても大事にしてくれる。自分にできることは少ないが、この一年、烏野がチームとして居心地の良い場所であることは保証できるし、伊吹にとってこの部活が好きだと言える一番の理由でもあった。恥ずかしくて一度も口にしたことはないが。

話しながら部室棟に着き、いつものジャージに着替える。珍しい黒のジャージだ。烏野高校排球部という文字列もいかつい。マネージャーにも支給されているので着ているが、今日はスクイズボトルをまとめて重曹に漬け置きして綺麗にする作業があるのでシャツ姿にした。
澤村たちは先に体育館に向かい、伊吹はもう一人のマネージャーを待つ。部室の前でスマホを弄りながら待っていると、すぐにやって来た。


「お疲れ」

「…っす」


まさに美人、という言葉が当てはまる女子。3年のマネージャー、清水潔子だ。他人に興味がない伊吹でも、この先輩の美人さには当初目を見張ったものだ。今は慣れてどうとも思っていないが、田中あたりは崇拝を続けている。


「マネージャーの勧誘したんすか」

「ううん、とりあえず今年は2人いれば十分かなって。やらなかったわけじゃないけど、たぶん来ないと思う」

「そっすか。今日、俺がボトル清掃するんでいいんすよね」

「そう。私は中の仕事するから。何かあったら呼んで」

「はい。じゃあ、俺流しの方このまま行っちゃいます。澤村さんたちには挨拶済みなんで」

「分かった」


清水との会話はいつも淡々としている。清水自身、無駄口はあまりしない上に伊吹も口数が少ない。マネージャーとして1年に渡り一番近いところで過ごしてきたが、プライベートな会話はしたことがなかった。
清水は体育館の中でタイマー係や補給をして、伊吹はスクイズボトルやジャージ類、タオルの洗濯といった外での仕事をすることになっている。男女で分けているわけではないが、やはり運動中の補給は女子マネにされるのが部員のモチベーションになるのでは、という伊吹の配慮である。



その後、しばらく外で洗濯をしてからスクイズボトルの漬け置きも始めると、思いのほか早く仕事がひと段落してしまった。3年がいなくなって人数が減ってから、初めてまとまった掃除と洗濯をしたからだろう。時間の感覚を図り間違えた。
重曹に漬けたボトルの部品はまだまだ置いておかねばならないため、作業がない。仕方なく、体育館の様子でも見ようと伊吹は部室棟の裏手から体育館に向かった。すると、何やらあずき色の指定ジャージを着た男子が2人、入り口の1つの前で途方に暮れている。しかも、片方のでかい方には見覚えがあった。


「…またでかくなってんな」

「っ!?朝倉さん!!」


後ろから声をかけてやると、でかい方がびくりとして振り返る。クールな顔立ちにさらりとした黒髪、身長は180に届いているようだ。


「夏ぶり、影山」

「っ、朝倉さん、烏野だったんスか!?」

「俺のセリフだわ」


伊吹はそう言うと、もう一人の小さい方に顔を向ける。首を傾げるオレンジ頭は、やたら背が低い。リベロ志望だろうか。


「俺は2年の朝倉伊吹、君もバレー部希望?」

「あ、うっす!!日向翔陽です!!」

「日向な。俺はマネやってる。まぁ、よろしく」

「えっ、朝倉さん、マネなんスか…?」


そういえば影山にはまったく高校でのことを話していなかったと思い至る。突然の情報の数々に驚きを連続させる影山に少し申し訳なくなった。


「そ。色々あったんだよ」

「影山の先輩、スか?」

「北川第一の俺の一個上でエーススパイカーだった人だぞ」

「エース!!」


目をキラキラさせる日向は、見るからにバレーが好きなようだ。しかしすぐに、エースがなぜマネージャーを?という顔になった。


「エースなのになんでマネージャーやってるんスか?」


そして顔に出ている通りのことを聞いてきた。単細胞2人に、田中といいこういうのが増えたな、と伊吹は内心思った。




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