猛犬注意−2
翌日の放課後、部活の休みをもらっていた伊吹は、帰ろうとしていた京谷のところへ向かった。
目つきが悪く怖がられている伊吹が、明らかに不良な出で立ちの京谷に絡みに行ったのだ、新学期早々揉め事かと、クラスメイトたちは戦々恐々としていた。
京谷はやって来た伊吹を怪訝に見遣る。正面に立つ京谷は、伊吹より8センチほど背が高い。しかし何よりも、体格が違った。
1年の頃からとてつもないスパイクを放っていたことを考えれば自然だ。
「お前さ、バレー、やめてないだろ」
「はぁ……?」
意外にも京谷はすぐに喧嘩を売ってくるわけではなく、こちらの出方を窺っていた。目が合うだけで殴り掛かるようなやつではないらしい。
「俺、バレー部のマネージャーやってんの。一応これでも、中学んときは北一でスタメンやってた。そのテーピングにアザ、部活来てねえわりに練習はしてんのな」
「……何の用だ」
「……はぁ、まどろっこしいのは面倒だな。お前も、喋るよりやり合うが好きだろ」
伊吹はぐっと京谷に詰め寄り、至近距離から挑発するように見上げた。京谷は引いたら負けとでも思ったのか、引かずに睨み返そうとしたが、視線が合うとその目を見張った。
「っ、」
「お前が練習してるとこ連れてけ。そこでお前をボコす」
「…ハッ、マネージャーのくせに何言ってんだ」
かろうじて、というように京谷は煽ってくる。伊吹はニヤリとしてやった。
「そのマネージャーに負けたら何でも言うこと聞けよ?」
「後悔させてやる」
***
京谷とやって来たのは、郊外の体育館だった。市民団体やサークルなどが利用しているところだ。どうやら、社会人サークルに混ざっているようだ。
「おっ、一匹狼がイケメン連れて来たぞ」
「えっ、わ、ほんとだ!」
明るい館内には数人の大人や若者がいた。慢性的に人が足りていなさそうな団体で、練習にも限りがあることは容易に想像できた。
それにしても、一匹狼呼びとは言い得て妙である。
伊吹は真っ先に声を掛けてきた、中心人物らしい髭の男性にぺこりと挨拶した。
「ちわっす。青葉城西のバレー部でマネージャーしてます。こいつと同じクラスです」
「おー、俺は清って呼んでくれ。連れて来られたのか?」
「ついてきました」
「おい、こいつボコすからコート貸せ」
京谷は清に不遜な態度でそう言った。清は一瞬驚いてから、少し呆れたようにした。
「へいへい、わーったよ。おい!ちょうど6人揃ったことだし、今日は3対3やるぞ!」
「はーい」
大学生や新社会人のような若者たちが返事をして、急遽3対3のミニゲームをすることになった。伊吹は礼を言ってから、着替えてアップを始めることにした。すでに京谷は更衣室に向かっている。
伊吹も続いて更衣室に入りロッカーを開けると、京谷が豪快にシャツを脱ぎ捨てた。露わになった上体は筋肉質で、胸板も背筋もしっかりしている。
腕力だけではない、伊吹のように体全体をバネと振り子のようにして、遠心力などをボールにかけるのだ。かなりの剛速球が打てるだろう。
だが、体をしならせてスパイクをするのは、セッターにとってあまり経験のないモーションだ。難しいセットアップが求められる。微妙に他の選手と打点に手を振り下ろすタイミングが異なるからだ。
それに、コントロールも難しい。腕を柔らかく鞭のように使うため、手先の微細なコントロールをボールに触れた瞬間だけ速やかに行うには、連続で難しいトスができる者との練習でなければならないし、場数も踏まねばならない。ブロックを前に様々なパターンのコントロールをするため、練習としては常に人数を必要とする。