猛犬注意−3
伊吹と京谷は、着替えて館内に戻ってからアップを始めた。自身の準備運動をしながら離れた位置にいる京谷を見ていると、清がやって来た。
「名前は?」
「あ、すんません、朝倉伊吹っていいます」
「朝倉君な。君、青葉城西のマネージャーって言ってたけど、元選手?怪我とか?」
「あー、はい、中学んときは選手でした。怪我とかではねっす」
「そうか、それならいい。にしても、いったいどうしてあの一匹狼と勝負なんてすることになったんだ?」
清に前屈で背中を押してもらいながら、伊吹は少し考えたあと、正直に答えることにした。サバサバとした雰囲気の清ならいいだろう。
「今のチームには、決定力が足りません。なんで、あいつが使えるようなら連れ戻すよう言われました。あいつ、1年のときに実力の高さから3年と揉めて。今の3年は、使えるなら使うつもりでいます」
「……なるほどな」
「…ひどい話だって、思います?」
「まぁ、なぁ。大人としては、みんなで部活やろうぜっていう爽やかなモンを期待するよなぁ」
まったく好意でもなんでもない。ただ、戦力になるか否か。デメリットの方が大きい場合、容赦なく放置するだろう。清が言うような、みんなで仲良く部活をやろう、なんていう青春ストーリーなど存在しなかった。
それは、確かに残酷だろう。3年との軋轢は、原因自体は京谷にはない。しかし来ないなら来ないでいい、でも使えるなら使う、というスタンスは、あまりに無関心だ。
「……でも、そんなこと言うのは失礼だろうな。君らは、それだけ本気でやってる。遊びでも青春物語でもない、全力で全国に行こうとしているんだろう」
「…はい。実力がないなら試合に出る資格はねえっすから。俺の仕事は、あいつの実力を見極めて、必要そうならチームに入れる程度の調整をすることっす」
「あの子の心を溶かすのは難しそうだけどなあ」
「心はどうでもいっす。チームプレーを形だけ守ればそれでいい。こちらへの好感とか友情とか、無理強いすることじゃないんで」
「強豪校こえーなぁ」
そう軽く言いながら清は何も否定しなかった。それくらいの反応でいいのだ。分かったように悟ったように口を出してくる大人が、一番煩わしかった。
子供なりに、伊吹たちだって必死で生きている。全力でやっている。妥協しかしてこなった大多数の大人に文句を言われる筋合いはなかったし、清はそこを分かっているのだろう。
一通りアップを終えると、3対3をやることになった。伊吹は京谷をボコすためにここに来た。言うことを聞かせる気まんまんである。
「そっちの編成から組めよ。すんません、京谷に先組ませてください」
前半を京谷に、後半を清に言った。京谷は舌打ちをしてから、清と若い大学生の男子を選んだ。セッター役は清だ。
残るのは若い女性2人。セッターを女子大生に任せ、新卒の女性にはMBとWSを任せることにした。
「京谷以外のボールだけ担当してください。攻撃するときは、なるべく平行かBかDのクロスで」
「分かった。でも大丈夫かな、こんな偏った編成」
「俺が支えます。…バレーは、全員で強い方が強い。1人だけ上手くても意味ねっす。それが輪を乱すなら、なおさら」
伊吹はレセプションもディグも、京谷のボールを受けることにした。セッターにAパスさえすれば、平行と遠めの速攻でブロックを振り切れる。
とりわけ京谷がボールに触れようとしない以上、クロスで後衛に打てば穴が大きい。