猛犬注意−5


その後、しばらく練習するうちに時刻は19時を過ぎ20時になろうとしていた。
部活でないため時間の感覚がなく、清にそろそろ締めると言われて初めて気付いた。

ずっと伊吹と京谷は1対1でレシーブとトスとスパイクを交互に繰り返していく練習をしていたが、清に言われて伊吹はサアッと青ざめた。


「は、マジ!?ですか!?」

「おう…家どこだ?」

「…太白区っす……」

「マジか」


この町民体育館は、仙台市の隣町にあるため、ここから自宅まではかなり時間がかかる。青城がある仙台市中心部を経由して、迂回するように電車に乗らなければならないためだ。

帰りが遅くなること自体は見越していたため、母には食事の準備はいらない旨を伝えていたが、ここまで遅くなることは想定していなかった。


「一匹狼、泊めてやれ」

「あ!?なんで俺が」

「や、別にそこまではいらねっす、」

「ここからだと2時間はかかるだろう。明日も学校なんだし、無理はしない方がいいんじゃないか?」


伊吹がボールを持ったまま途方に暮れていると、京谷は頭をガシガシとかいてから、「仕方ねえな……」と呟いた。


「今日、親いねぇし。泊めても問題ねぇ」

「え、マジ?」


まさか京谷が承諾すると思わず、ぽかんとする。いったいどういう風の吹き回しだろうか。
そんな伊吹に京谷は舌打ちをして、顔を背けて更衣室に向かってしまった。異論は受け付けないようだ。
呆然としていると、清が感心したように頷いた。


「なんだかんだ、楽しかったんだろ、同年代と何も気にせずプレーすんのが。朝倉君も、京谷が好きにできるようなトスを意図的に返してたろ?」

「……バレてました?」

「おう、端から見てたらな。あいつは何も気付いてないだろうが」

「…バレーが好きなのは、よく分かったんで。人と一緒にやる競技を、人のせいで嫌いになんの、悲しくねっすか。だから…」

「ふっ、君、なんだかんだ優しいな。あんな冷たいようなこと言ってたわりに」

「っ、るせっす」


見透かしたように言われて気恥ずかしくなった伊吹は、京谷のところへ向かうため更衣室に歩き出した。他のメンバーに挨拶しながら出口に向かい、最後に振り返って清にも礼をしてから更衣室に入った。
すると、入ってすぐのところに京谷がいた。まだ着替えていない。


「あ?まだ着替えてねえの」

「うるせえ。さっさと着替えて帰んぞ。腹減った」

「あー、晩飯な。どうする」

「……適当に寄りゃいいだろ」

「不健康だろ、運動後なんだし」

「チッ、俺ぁ炒飯ぐれえしか作れねえぞ」

「むしろできることに驚きだわ。お前んちが気にしねえなら、俺も作る。わりと得意」

「そっくりそのまま返す」


不良な見た目2人が揃って料理ができるのだ、確かに驚きだろう。そう思うとおかしくて、伊吹は小さく噴き出した。
京谷は笑わないまでも雰囲気がソフトになる。なんだかんだ、京谷とはきちんとコミュニケーションが取れていた。
今日が話をするようになって初日という付き合いの浅さだが、バレーで殴り合ったからか、なんとなく距離は相当に縮まっているような気がした。



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