居場所−4
いったい何を頑張ればいいのか分からないまま、「とりあえず任せとけ」と岩泉にも言われたため、その場は2人に任せた。ただの高校生に過ぎない彼らに何ができるのだろうか。まさか、奨学金を新設することなどできるわけもない。伊吹も所詮中3だ、何を全力になってやればいいのか見当もつかない。
そのまま1週間が過ぎた、ある日。及川から、「ご両親いる?」というメッセージが来た。今日は離婚協議の大詰めということで、家に2人が揃っていた。
2人がいる旨を告げた、10分後。インターフォンが鳴って、なんと及川と岩泉がやってきた。2人は、伊吹だけでなく父と母まで呼び出した。
「…父さん、母さん」
「なに?誰か来たの?」
「俺の、中学時代の先輩。今、青城の1年。2人に話したいことあるから出てきて欲しいって」
「話したいこと…?」
訝しむのも当然だ、面識もない高校生に直接話をされる心当たりなどないだろう。
伊吹だって、いったい何をしに来たのか見当も付かなかった。
両親とともに玄関に降りて、扉を開けると、一軒家であるこの家の軒先に出る。道路にいる2人を招き寄せて玄関の前まで来てもらう。
「こんにちは、いきなりすみません。北一で伊吹君の一個上としてバレー部にいた、及川といいます」
「岩泉っす」
及川は顔が良く目立つため、試合を見に来たことがある両親は「あぁ、あの」と思い出していた。丁寧な喋り方をする及川に違和感があった。
2人は制服で、エナメルの鞄を肩にかけている。部活ではないのだろうか。
2人は一度鞄を置いたあと、突然、がばりと頭を下げた。伊吹も両親もギョッとする。
「ちょ、及川さん、岩泉さん、何して、」
「お願いします!!」
近所迷惑にならない程度に張った声で、及川が90度に腰を折ったまま口を開く。
「伊吹の、進路の希望、叶えてもらえませんか!」
「希望って……」
両親は動揺したまま、伊吹の方を見る。お金がかからずある程度バレーができるならどこでもいい、としか伊吹は伝えていなかったからだ。
「伊吹は、ご両親の事情に配慮して、進路希望を我慢してるんです。こんなこと、部外者で、たかが高1の俺たちが口挟んでいいことじゃないって、分かってます。でも、たかが高校生だけど、できることは全部してあげたいと思いました」
依然として頭を下げたままの2人。まさか、面と向かって離婚調停中の夫婦に申し立てるとは、さすがに思わなかった。
呆然としていると、岩泉が鞄から書類を取り出した。
いつも書類を適当にエナメルに突っ込んでぐしゃぐしゃにしてしまっていた岩泉が、綺麗な茶封筒に入った書類を取り出したことに驚く。
「伊吹は、青城に行きたいって言ってくれました。ここに、青城のシングルマザー世帯向けの奨学金資料と、成績優秀者奨学金、それから仙台市、宮城県、国の奨学金資料が入ってます」
「こっちは、進学用投資信託、生前贈与の案内です」
2人は両親に書類を渡すと、再び頭を下げた。頼みに来ただけではない、自分たちで調べてきてくれたのだ。
「うちの教師に、事情はぼかして相談して、教えてもらいました。市役所にも行きました」
岩泉が言うには、大人の手を借りつつも、できる限りの情報をまとめてきたらしい。
分厚い書類と、頭を下げる2人を見て、両親は困惑しつつもようやく事態を理解しつつあった。