第四話: Völkerschlacht−5


すると、突然昼神の声が機内に響いた。


「なんで、伊吹ばっかりこんな目に遭わせるんですか」


伊吹は牛島の腕の中から機内に目を向ける。全員の目線を受ける昼神は、まっすぐ烏養を見つめていた。


「ティクリートのことだって、烏養さんが当時ただの民間人だった伊吹に対して実験施設の破壊を命じたからですよね。あんたが責任を取るつもりだったんでしょうけど、別に誰も責任なんて求めなかったし、ただ、伊吹が怪物だと蔑まれただけだった。今度はライプツィヒですか」

「昼神、やめろ」


諏訪は昼神を止めようと声をかけるが昼神は答えない。いつも温厚な言動をする昼神が厳しい表情と口調をしていることに、全員が驚いていた。
それに対して、侑も乗じた。


「せやで烏養さん、別に市街地を破壊してもええような爆発やったら、牛島さんや旭さん、ぼっくんに治かてできたはずですやろ。いくら当局の指示言うてかて、伊吹にこないなことさせへんくても良かったんやないですか」


いつもうるさい侑が静かに淡々と述べたことに、アランは「おい…」と気圧されて止めることもできない。烏養は二人の言葉を受け止めながらも何も言わなかった。
さらに月島も静かに口を開く。


「お二人の言うとおり、ドイツ政府やザクセン州の指示に国防軍が必ずしも従う必要はありません。むしろ、敵の殲滅だけなら宮さんが言うとおり他の隊員でもできたはずですよね」

「月島に同意だな、日本とアメリカが枢軸側に牽制をかけたいってのを優先したんだろ」


瀬見まで同意を示し、烏養への厳しい言葉が続けられていく。異様な事態に伊吹は驚き止めようとしたが、二口の声がかぶせられた。


「そッスよ、なんで伊吹を優先しないんスか。そんなにアメリカ様が偉いんスか」

「俺も納得いきませんね。木兎さんの連続爆破でも十分、大隊レベルなら無効化できます」


赤葦も冷静に批判を口にする。赤葦がこうして異を唱えることは珍しい。同じく従順な金田一も珍しく声を上げた。


「お、俺もこれはどうかと思います!烏養さんこそ、一番反対して、伊吹さんのこと守ろうとするべきなんじゃないですか」

「俺も責任取るってならそれくらいするべきだと思うんスけど!」


金田一の隣に座っていたリエーフはそれに同意を示し、その隣の夜久も今回はリエーフを諫めることはしなかった。
次々に烏養への非難が向かう中、伊吹はそれを止めたかったが、しかしここで伊吹が烏養のことを庇おうとするのは逆効果な気もしたし、ここで烏養が彼らを納得させられなければこの先の任務遂行に支障が出る。
それを防ぐためにも、烏養が説明する必要があるのも確かだった。

ついに烏養は立ち上がり、ハッチを閉じる。吹き込んでいた風がなくなり、機内は飛行音だけの静かな空間となった。


「…お前らの言うことは正しい。俺こそ責任を負うべきだし、苦しむ伊吹のために今回の作戦を拒否することだって俺の仕事だったのかもしれない。いや、実際最初は別のやり方を提案したが、二口の言うとおり、俺は米国や日本の意見に従うことを選んだ」


烏養は牛島とともに座り込んだままの伊吹のところまで来ると、しゃがんで伊吹と目線を合わせた。そして、伊吹の頭をそっと撫でる。


「お前らの批判は甘んじて受ける。人でなしだと罵ってもらってかまわないし、それを否定もしねぇ。でもな、俺の責任は、伊吹に対して負うモンだ。俺のせいで苦しんだ分は、俺が個人として伊吹個人に返す。それはすぐにできねぇかもしれないが、残りの人生をすべてかけてでも返すつもりだ。そしてそれは、お前らには関係のないモンだ」

「烏養さん……」

「俺は三等陸佐だ。国に対しても責任を負わなきゃいけなくて、それはときに伊吹個人を守ることに優先することもあるだろう。でも、別の場所で必ず伊吹への責任も果たす。それをお前らに報告することも、お前らに分かるよう見せびらかすこともねぇ。それだけだ」


烏養はふっと笑ってから、伊吹から離れる。そしてしかと昼神たちを見渡した。その目つきは鋭く、揺るぎない「覚悟」を持っていた。本気のそれは、他人を圧倒する力のあるものだ。イニシャルセブンであり、30代の成熟した男として烏養が固めている覚悟は、20代の若者たちでは及ばないものだった。

無言の機内は、もはや烏養を責めるような空気ではなくなっていた。ただ、大隊長として率いる立場にいるとはどういうことか、それを改めて実感した隊員たちは、もう何も言うことはなかった。


「……それではこれより帰投する。日本へ帰るぞ」



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