第二話: Shenzhen Incident−2
中華連邦共和国・広東省珠海市沖合。
珠江デルタの広大な河口で、国防海軍の護衛艦「いずも」の艦上に伊吹たちは並んでいた。軽空母に改造されたいずもの艦上は広く、強く湿った6月の風が吹き付けてくる。
烏養、溝口、直井と並んで正面に立つ伊吹は、こちらに向かって整列する第1魔法科大隊を見渡し、そしてちらりと横眼に一般の海兵を見遣る。いまだ、国防軍では魔法科大隊に対する異質なものを見る目は強い。
しかし今、国連によって召集されたのは伊吹たち第1魔法科大隊だった。
烏養は一歩前に出て口を開く。
「魔法軍縮条約第24条に基づき、6月23日をもって中華連邦共和国は国連に対して国連軍の派遣を求めた。終戦間もないタイミングだ、まだこのような事態に国際法的な名称はないが、暫定的に、各国ではこれを『第24条活動』と呼んでいる」
Article 24 Operation、通称
A24と呼ばれる国際活動は、魔法軍縮条約の第24条に基づいて国連が招集する多国籍軍の活動のことだ。広く国連軍に属するものであるが、A24は魔法科兵によるものである。
魔法軍縮条約では、大部分は各国の魔法科兵規制に関する内容となっているが、各国が協調して魔法科兵による多国籍部隊を組織して国際貢献するための規程が第24条にあり、この条文では国連加盟国は国連に対して自国非常事態における他国魔法科兵の供用を求めることができることになっている。
国連平和維持活動PKOと異なり特に決まった名称がまだなく、そもそも終戦してやっとそろそろ2か月というタイミングでの事態であるため、世界はまだ秩序回復の途中にある。
しかし、中国ほどの国が一度崩壊して体制を抜本的に変革するという辛亥革命以来の混乱は、このような事態を引き起こすことを各国に予想させていたし、事実そうなった。
ただ、今回は各国にとってもかなり懸念があり、新安保理の協議の上、中国が求めたものよりも若干規模の大きな編成でA24が組織された。日本からは第1魔法科大隊全員が招集され、大隊丸ごとというのは日本だけだった。あとは米国やロシアを中心に、周辺国から編成されている。
「敵は重慶政府を名乗り、深圳の外国人6000人を人質に取っている!我々の任務は最も敵兵の多い福田区における掃討作戦、およびビル群に閉じ込められた人質の救出だ!」
烏養が述べたあと、並んだ大隊の横から、今回から初めての参加となるメンバーが前に出てきた。温厚な顔立ちに眼鏡がよく似合う男性と、女性5人だ。
「今回からは大隊として初となる司令部隊が入る!訓練通りの報連相を忘れんなよ!じゃ、頼んます」
「はい。皆さんこんにちは、武田です。今回の深圳解放作戦から司令部が入るので、作戦中の指示はこちらにお願いします」
武田一鉄、三等陸佐で第1魔法科大隊の司令官である。これまで指示や作戦立案は烏養が行っていたが、戦況をデータで客観視しながら具体的な指示を出す役目を司令部隊が担うことになった。この部隊は指示や情報収集のほか、作戦変更や退路誘導、他部隊との連絡など広範なサポートをしてくれる。
武田の下についているのは、なぜか偶然にも女性ばかりの5人となっている。
まず第一中隊の主司令官が清水潔子、第二中隊の主司令官が滑津舞で、以降の各隊への指示や連絡はこの二人が行う。
そして雀田かおりは戦況や敵情、友軍の状況などの報告担当、白福雪絵は友軍や他の部隊との渉外連絡担当となっている。
最後の一人である谷地は函館で日向たちといた女性で、装備・車両手配担当として各種装備品や輸送機・輸送車両などの手配・誘導を行う。
烏養や溝口たちの仕事が減ったことで直井と溝口は現場で思い切り活動ができ、烏養も冷静に作戦立案ができるようになった。烏養自身、武田と二人で作戦を組み立てられるのは楽だろう。
武田は続いて作戦の大まかな説明をする。
「重慶政府による深圳特別市の占領、および中華連邦政府に対する独立宣言は、深圳市内の外国人6000人の人質によって膠着状態となっています。以降、当該事態を日本政府による名称に則って『深圳事変』と呼称します。そこで我々は、超高層ビルである平安国際金融中心ビルで特殊工作型横断編成分隊”Silent”による駆逐と、その他の皆さんによる地上重慶政府軍の掃討作戦に分かれてもらいます」