第二話: Shenzhen Incident−5


伊吹とSilentのメンバーは福田駅のプラットフォームに上がり、銃撃戦の中をエスカレーターから上階へ向かう。先行した”Earth”は広大な地下1階コンコースにて、デジタルサイネージのついた太い円柱の影に隠れる敵兵と戦闘を始めている。アサルトライフルで連射してくる敵の銃弾はすべて独立外発孤立空間魔法シールド兵器INEXIA-96に阻まれ、黒い壁が銃弾を弾いて天井の光を反射する磨かれた床を抉っていく。この最新のイネクシアは魔力にも反応し、パリで苦しんだような魔法そのものへの抵抗力を持っている。

光を反射する床を、Silentは文字通りの静かな足音で走っていき、地下鉄の方へと進む。

後ろでは、ガラスの割れる音とともに、地下から追いついた”Wing”が窓を破って外へと出て、地上への吹き抜けになったタクシー乗り場から地上市街地に向かっていくのが見えた。すぐに地上の超高層ビル街でも銃撃戦が始まるだろうが、魔法科兵の敵ではない。

たまにSilentも敵兵と遭遇して機械的に倒していき、やがてD4出口から地上へと上がると、目の前に平安国際金融中心ビルの威容が姿を現した。


「うっは〜、デッケェ〜」


天童はビルを見上げて楽しそうに笑う。さすがにこの高さのビルはそうそう見られるものではない。


「さすがにこのビルを階段で上がるわけじゃないですよね」


見上げていた月島は思わずといった感じで言うと、近くにいた弧爪は「絶対むり」と呟き、国見は「そうなるなら俺ここに待機してます」とすかさず重ねた。赤葦はそんな3人に苦笑する。


「さすがにエレベーターで行くよ。事前に武田さんからエレベーターの鍵もらってるから」


高さ600メートル、115階建てのこのビルを階段で上がっていては永遠に終わらない。避難してきた防災センターの管理者から武田はすでに鍵を預かっている。この鍵は、エレベーターに差し込むことでその箱を箱の中のパネルだけで操作できるようになる。ビルの管理システムから外れるのだ。消防の救助活動で使われるものである。

黒尾はビルの入り口を手元の端末で確認すると、赤葦の方を振り返る。


「俺たちへの迷彩魔法は赤葦の担当な。俺は光学術式に専念する。弧爪はいつも通り行動順路の誘導、昼神と二口は壁担当」

「肉の壁みたいに言わないでくださーい」

「伊吹は俺が守るからね」


黒尾の指示に対して早速二口が文句を言って昼神は返事もせずに伊吹を後ろから抱きしめてくる。この分隊、癖が強すぎる。黒尾ですらまともに見えるのだ、相当なメンバーだった。

それでも実力は確かで、そしてリーダーである黒尾への信頼もある。黒尾が地下鉄の出入り口からビルの従業員用エントランスを指さすと、赤葦は頷いて全員に迷彩術式を展開、姿を見えなくさせた。以降は極力音を出さず隠密行動をとる。武田からの指示も無線もない、完全な現場判断で行動するのである。無言のまま、黒尾がフィンガーレスの革手袋に第一関節あたりまで覆われた中指と人差し指を揃えていったん上に向け、そして前に向けて突き出す。

それを合図に、全員が平安国際金融中心ビルへと走り出した。先頭は黒尾、しんがりは二口で、真ん中に昼神と伊吹、弧爪がいる。月島や国見、赤葦は状況に応じて位置を入れ替える。広い道路は車が乱雑に停車したままで、信号だけがいつも通りの仕事を続けて光る。無人のオフィス街は、中腹から煙を上げる高層ビル群から降り注ぐ書類がひらひらと舞い落ちてくる以外に動く者はいない。

その中で無傷のままである平安国際金融中心ビルの足元までやってくると、大きなエントランスからビルの中に音を立てずに入る。エントランスにはそれなりに兵士がいたが、全員福田駅での戦闘によって慌ただしくしている。その音に紛れて走り、ぶつからないよう気をつけながら、エレベーターホールに到達した。


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